2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26810038
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 崇弘 九州大学, 小分子エネルギーセンター, 准教授 (90570987)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 燃料電池 / ヒドロゲナーゼ / モデル / 水素 / 酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、水素酸化還元酵素ヒドロゲナーゼをアノードに用いた固体高分子形の酵素燃料電池を開発した(Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8895-8898)。本研究は、ヒドロゲナーゼを固体高分子形燃料電池の電極触媒に応用した初めての例である。 固体高分子形燃料電池は、数種類ある燃料電池のなかでも低温駆動や小型軽量化に最も適しており、自動車や携帯用電源としての使用が期待されている。しかし、固体高分子形燃料電池の電極触媒には枯渇性で高価な白金を使用しているため、その代替触媒が必要であるが、いまだに白金に代わる電極触媒は開発されていない。ヒドロゲナーゼは、燃料電池のアノードの反応(水素の酸化)を触媒する機能を持ち、単位物質量あたりでは白金を超える水素酸化活性を持つことが知られていたが、酸素や熱に不安定なことから、固体高分子形燃料電池の電極に応用した例はなかった。これまでに我々は、酸素や熱に安定な新種のヒドロゲナーゼを探索し、新種の菌体シトロバクターS-77から、新規ヒドロゲナーゼS-77を単離・精製した。このヒドロゲナーゼS-77は、酸素や熱に耐性があり、固体高分子形燃料電池の作動条件でも十分にその機能を維持することが可能である。ヒドロゲナーゼS-77を用いたアノードの半電池測定を行うと、単位質量あたりでは白金の637倍の水素酸化活性を示すことが分かった。アノードにヒドロゲナーゼS-77、カソードに白金を使用した固体高分子形酵素燃料電池を作製すると、白金燃料電池に対して1.8倍の発電性能を示した。また、インピーダンススペクトルやアーレニウスプロットからも、ヒドロゲナーゼS-77は白金触媒よりも優れた触媒性能を示す結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、水素酸化還元酵素ヒドロゲナーゼをアノードに用いた酵素燃料電池の開発に成功し、論文(Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8895-8898)とプレスリリース(平成26年6月4日、「燃料電池の白金電極を超える水素酵素「S-77」電極の開発に成功(白金の637倍の活性)」)にて、その成果を公表した(web、テレビ、新聞各社で報道)。また、本成果は、JST newsの特集記事にて紹介された(2014年9月号、「天然酵素をまねて人工酵素を開発:自然界の力で優れた燃料電池の実用化を目指す」)。このように、本研究は当初の研究目的に沿って順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度中に、水素酸化還元酵素ヒドロゲナーゼをアノードに用いた酵素燃料電池の開発に成功したため、平成27年度はヒドロゲナーゼを規範とした、より実用に近い燃料電池電極触媒の開発を目指して、錯体化学・有機金属化学に基づいて、ヒドロゲナーゼの活性中心構造と機能を分子論的に再現したモデル錯体の開発を行う。 ヒドロゲナーゼは、水素の酸化と発生を触媒する酵素であり、活性中心構造によって3種類に分類される。[NiFe]ヒドロゲナーゼ(活性中心にニッケルと鉄を持つ)、[FeFe]ヒドロゲナーゼ(活性中心に鉄を2つ持つ)、[Fe]ヒドロゲナーゼ(活性中心に鉄を1つ持つ)の3種類である。なかでも、[NiFe]ヒドロゲナーゼは、水素の酸化を得意とするため、本研究では、[NiFe]ヒドロゲナーゼの構造を模範とし、新規機能モデル錯体の開発を行う。この[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性中心は、ニッケルと鉄が2つのシステイン残基のチオレートで架橋された2核構造をしており、水中・常温・常圧で水素を容易に酸化することができる。すなわち、[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性中心は、水素分子の強い水素-水素結合を容易に開裂させ、電子を取り出すことが可能な構造的仕組みを有していると考えられる。また、近年、この[NiFe]ヒドロゲナーゼは、水素だけでなく、酸素を活性化して水に還元する一種の防御機能を持つことが報告されている。すなわち、本酵素は、燃料電池のアノードとカソードの両極の機能を持つ特殊な触媒である。この酵素の活性中心構造を基に、分子触媒を精密に設計し、水素と酸素を活性化できる新規モデル触媒の開発を目指す。開発したモデル触媒の水素と酸素との反応性を詳細に検討し、最終的には、開発したモデル触媒をアノード触媒またはカソード触媒として使用し、燃料電池の評価実験を行う。
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Research Products
(11 results)