2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26810047
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
逢坂 直樹 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (80726331)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 超分子化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、動的ならせん構造が有する『キラル情報の長距離伝達能』の特徴を最大限に活用したキラル構造の遠隔制御システムの構築とその応用を目指す。 これまでに、動的ならせんペプチド鎖を有するトリスビピリジン金属錯体の中心金属周りの動的なプロペラ状のキラリティーを、中心金属から離れた位置に導入したキラル残基によるアキラルペプチド鎖の一方向巻きのらせん誘起を介して、ほぼ100%の選択性で完璧に遠隔制御することに成功している。そこで、この遠隔制御を他の動的なキラル構造体へ拡張することを目指し、動的な面性キラリティーを有するメタロマクロサイクルに着目した。 目的の面性キラルなマクロサイクルは、Ni(II)イオン存在下、動的ならせんペプチド鎖を有するビスサリチルアルデヒド誘導体とオルトフェニレンジアミンとのイミン結合と配位結合の形成を介した自己組織化の手法を用いることで、ほぼ定量的に合成可能であることが分かった。また、鎖長の異なるペプチド鎖を有するマクロサイクルも同様の手法により合成した。 得られたマクロサイクルの面性キラリティーの優先性と動的性質(異なる面性キラリティー間の相互交換速度)は、1H NMR、円二色性(CD)測定により検討した。その結果、その面性キラリティーの優先性と動的性質は、導入したペプチド鎖長と溶媒の極性に大きく依存することが明らかとなった。すなわち、遠隔制御された面性キラリティーの優先性を溶媒によりスイッチングし、さらに、そのスイッチングの速度を溶媒とペプチド鎖長により制御することに成功した。興味深いことに、より極性の高い溶媒を用いた場合では、らせんペプチド鎖の構造が310-ヘリックスからα-ヘリックスへと変化し、その結果、動的な面性キラリティーが固定化されることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度の計画通り、動的ならせんペプチド鎖を有する面性キラルなマクロサイクルの合成とその動的な面性キラリティーの遠隔制御に成功した。さらに、遠隔制御された面性キラリティーの優先性は溶媒により可逆的にスイッチング可能であり、そのスイッチングの速度をペプチド鎖長と溶媒により制御可能であることも明らかとした。また、高極性溶媒中、らせんペプチド鎖の構造が310-ヘリックスからα-ヘリックスへと変化することで、動的な面性キラリティーが固定化される興味深い現象も見出した。これらの成果は学術論文として投稿中であることから判断して、期待以上の研究の進展があったと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度で得られた結果と動的ならせんペプチド鎖が有する『キラル情報の長距離伝達能』の特徴を最大限に活用し、以下の研究を開始する。 1.【階層的なキラル情報の伝達を利用した不斉反応】 らせんペプチド鎖の末端に導入したフェニルピリジン誘導体は、不斉触媒へと展開可能な動的な軸不斉を有している。特に、ピリジンN-オキシド誘導体は、有機分子触媒として働くことが知られている。そこで、動的ならせんペプチド鎖の末端に導入したフェニルピリジン誘導体の動的な軸性キラリティーを遠隔制御した後、N-オキシド化により固定化することで、軸性キラルな化合物の遠隔不斉反応に取り組む。さらに、それを用いた不斉触媒への応用も検討する。 2. 【キラルな空孔を利用したキラル認識】前年度に合成した動的ならせんペプチド鎖を有するマクロサイクルの内部空孔は、その面性キラリティーと複数のらせんペプチド鎖に由来した高い不斉環境を有することが期待される。そこで、キラルなゲスト分子の不斉選択的な包接を目指す。この際、空孔内部へのゲスト分子の包接を促進するため、水溶性らせんペプチド鎖や特定のゲスト分子を認識可能な官能基をペプチド側鎖に導入したマクロサイクルを合成し、さらなる綿密な分子設計・条件検討を行う。また、動的な軸不斉を有するゲスト分子の包接による遠隔不斉誘起についても取り組む。
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Causes of Carryover |
平成26年12月、マクロサイクルの面性キラリティーの遠隔制御の評価の段階で、当初予定していた面性キラリティーの遠隔制御だけでなく、面性キラリティーの優先性やキラリティーの反転速度が溶媒やペプチド鎖長により制御可能であることが見出された。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが重要であることから、面性キラリティーとペプチド鎖長ならびに配列の関係を明らかにする必要が生じたため、当該助成金を翌年度へ繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に実施予定の研究計画では、目的達成のために、らせんペプチド鎖の配列や、アミノ酸残基の種類などを様々に変化させて最適な条件を検討する必要がある。そのため、高価な非天然アミノ酸や立体障害の大きなアミノ酸同士を縮合させる特殊なカップリング剤を大量に購入する。また、軸性キラリティーが遠隔制御されたキラルな化合物を触媒に用いた不斉反応やマクロサイクルへの不斉選択的なゲスト分子の包接を評価するために、高価な低温反応装置や光学分割カラムを数本購入する。
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