2016 Fiscal Year Research-status Report
高分子薄膜に含まれる微量水が高分子構造や機能性に与える影響の解析手法の確立
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26810075
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下赤 卓史 京都大学, 化学研究所, 助教 (40609921)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フッ素化学 / ダイポールインタラクティブ / 表面電位測定 / Nafion膜 / パーフルオロアルキル鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに,プロトン伝導性高分子膜の代表であるNafion膜の,性能を支配する膜中の水分子について調べ,Nafion膜中の親水性サイトであるスルホン酸基に水和した水の構造を明らかにした.今年度は,Nafion膜の大部分を構成するパーフルオロアルキル(Rf)鎖の,プロトン伝導性における役割を調べる研究を行った.これまでRf鎖の部分は,水分子が一切入り込まない“疎水性コア”として考えられてきた.しかし,最近Rf鎖の凝集性が低下した部分は双極子相互作用支配の性質が現れ,分子水やクラスタサイズの水に対して親和性を示すことが明らかになった.Nafion中のRf鎖は分岐構造を有し,凝集していない“孤立鎖”として存在するパートが多いと予想される.そこで,Rf鎖が孤立鎖で存在する際の水に対する相互作用を調べる研究を行った. 具体的には,凝集性が極めて低くRf孤立鎖としての性質を示す,CF2基の数が3および5のRf鎖を末端に有する両親媒性分子の水面上での吸着構造を表面圧・表面電位測定で調べた.その結果,Rf孤立鎖は水の表面に強く吸着し,容易には脱離しないことがわかった.Rf鎖は水への溶解性が低い点で,この性質は親水性とは異なる.水表面には水素結合が形成していないダングリングOH結合が多数存在するため,このOH基とRf鎖が双極子-双極子相互作用を通じて吸着していることがわかり,この性質をRf孤立鎖のダイポールインタラクティブ性と呼んでいる. この研究内容は国内の界面化学,フッ素化学等の学会で講演し,国際的な学術誌に発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題を構成する2つのテーマのうち,「Nafion膜内の水分子の解析」は,予定していた親水性パートに関する研究だけでなく,疎水性と考えられてきたパーフルオロアルキル鎖にも注目した研究を行った.その結果,両パートの役割について統合的に議論でき,想定していた以上の成果を上げることができた. もうひとつのテーマである「溶液中の高分子構造におよぼす微量水の影響」について,刺激応答性高分子の構造解析の研究を進めており,このテーマのまとめを次年度に行う.
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Strategy for Future Research Activity |
パーフルオロアルキル化合物特有の物性として,酸素・二酸化炭素吸蔵能があげられ,これらの性質もRf鎖の双極子相互作用支配の性質を考慮して検討する必要がある.今後はこれらガス分子の吸着に関しても取り組む予定である.
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Causes of Carryover |
本課題のテーマの1つである「プロトン伝導性高分子膜中の水分子の解析」に関し,本来想定していた親水性サイトの解析に加え,疎水性コアと見なされていた,パーフルオロアルキル鎖に関する研究も追加で行った.その結果,もう1つのテーマである「刺激応答性高分子に含まれる微量な水の解析」に関する研究が遅れており,次年度にこの研究・まとめをおこなう.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度に取り組むテーマは,高分子溶液中に含まれる微量な水分子に着目した解析を行う.具体的には赤外分光およびNMR測定を行うが,実験器具や試薬等の消耗品代や,NMRの利用費に充てる予定である.
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