2015 Fiscal Year Research-status Report
ガスクラスターイオンビームによる有機高分子の選択的結合破断と表面分析への応用
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26810077
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
盛谷 浩右 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20391279)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 質量分析 / SIMS / Arクラスター / GCIB |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、運動エネルギーと大きさを精密に制御した気体クラスターイオンを有機分子薄膜に照射し、スパッタリング時に起きる分子内化学結合の破断を制御することで、ガスクラスターイオンビーム(GCIB)による二次イオン質量分析(SIMS)においてスペクトル解析を大幅に簡略化し、分子種の同定を容易にすることである。まず、高分子モデル試料のポリビニルピロリドン(Polvinylpyrrolidone, PVP:(C6H9NO)n)など数種類の試料を、Eatomを変えながら複数回SIMS測定しスペクトルを比較した。SIMSスペクトルには、試料ポリマーのモノマーユニットを含む代表的な解離イオン種が検出されることがわかった。そこで、代表的な解離イオン種のピークを抜き出し解析を行った。PVPの例では、Eatomを大きくしていくと、まず主鎖の切断がおこり、次に環状構造部が切断され、続いて5員環ラクタム構造が破壊されることが、他の試料でも良く似たEatom依存性を示すことがわかった。さらに高い精度で解析するために、Eatomをランダムに変えながら連続してSIMS測定を行うシステムを製作し、短時間で大量のスペクトルデータを取得できるようにした。この大量のデータをこれまでに製作してきた統計解析用プログラムで解析したところ、スペクトルのEatom依存性には、分子内化学結合の結合エネルギーの他の要因にも依存することを示唆する結果が得られた。この結果は、GCIB-SIMSにおけるスペクトルのEatom依存性データには、分子構造の違いだけでなく、試料の立体構造や力学的特性等、試料の物性に関する多くの情報が含まれることを示しており、今後のGCIB-SIMSデータの解析法を確立するための重要な基礎データとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、前年度からの予定通り、Eatomをランダムに変えながら連続してSIMS測定を行うシステムを製作し、短時間で大量のスペクトルデータを取得できるようにした。そのため、より正確にEatom依存性を解析できるようになった。大量のデータを解析できるようになったことで、スペクトルのEatom依存性に当初予想していた分子構造情報以上のものが含まれている可能性が示唆され、その詳細について新たに検討することが必要となった。また実験の過程で、分子構造情報に関しては、Arクラスターの他に水やメタノールのクラスターを用いることでより詳細に検討できる可能性を見いだし、その検討も行っている。これらの当初予想されていなかった結果を見いだしたため、当初計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究で、複数のモデル試料の測定結果から、分子構造(官能基の種類)とクラスターイオンの照射条件(Eatom 、クラスターの大きさ等)により解離パターンおよび結合解離の閾値が変化することを見いだした。また、短時間で大量のスペクトルデータを取得できるようにし、解析時の統計的な誤差を小さくできるようにした。その結果、スペクトルのEatom依存性に、分子構造以外の情報が含まれていることが示唆されている。今後の研究では、同様な分子構造を持ちながら積層構造や配向性の異なる試料や、力学的特性の異なる試料を用い、それらから得 られる二次イオンスペクトルと、その統計解析結果を元にして、複雑なスペクトル解析法の基本的な考え方を確立していく。
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Causes of Carryover |
研究進捗の遅れにより成果発表時期が次年度となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度に得られた研究成果発表に使用する。
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