2014 Fiscal Year Research-status Report
極限環境におけるDNA相互作用を活用したDNA塩基対形成の制御
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26810094
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 助教 (20593495)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 極限環境 / 分子クラウディング / イオン液体 / ワトソン・クリック塩基対 / フーグスティーン塩基対 / 熱力学的解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
核酸を薬剤や材料として活用する際、核酸は細胞内やチップ基板上の“超クラウディング環境”やイオン液体中の“超高塩濃度環境”などの“極限環境”下におかれ、DNA構造や安定性はこれらのような溶液環境の影響を大きく受ける。 本年度は、極限環境が核酸に及ぼす影響を分子レベルで“知る研究”を遂行した。まず、細胞内の超クラウディング環境が核酸構造に及ぼす影響として、ウイルス耐性などに関与するRNAの非塩基対部位であるダングリングエンドに及ぼすポリエチレングリコールによって誘起されるクラウディング環境効果について解析した。本研究結果から、ダングリング部位はワトソン・クリック(W・C)塩基対部位と水和構造が異なるため、細胞内の細胞周期などの環境変化に敏感に応答し、RNAの構造安定性を調整している可能性が示唆された(ChemMedChem, 9,2150,2014 [中表紙に採択]、2014年10月2日神戸新聞掲載)。また、生体膜モデルであるリポソーム上での核酸の非標準構造であるフーグスティーン(H)塩基対をもつ四重鎖について解析した。その結果、生体膜とDNAの相互作用により、四重鎖は顕著に不安定化することがわかった(Nucleic Acids Res., 42, 12949, 2014)。さらに、リン酸二水素型コリン水和イオン液体(IL)によって超高塩濃度環境を構築し、W・C及びH塩基に及ぼす超高塩濃度環境の効果を熱力学的手法、核磁気共鳴法、分子動力学計算によって解析した。その結果、コリンイオンの核酸の溝部位への結合によって、IL中での核酸構造安定性が決定されていることが示された(Nucleic Acids Res, 42, 8831, 2014, J. Phys. Chem. B., 118, 9583, 2014, Biochimie, 108, 169, 2015等)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
核酸の構造や安定性はこれらのような極限環境の影響を大きく受けるが、これまでこのような環境の効果は複雑であるため、環境効果を加味した核酸構造予測は困難であった。本研究で極限環境の物性変化(誘電率、水の活量変化など)に着目することによって、複雑な環境をシンプルに解析し、核酸構造安定性に及ぼす“極限環境”の影響をエネルギーレベルで理解することを試みた。 その結果、RNAの非塩基対部位であるダングリングエンドに及ぼすポリエチレングリコールによって誘起されるクラウディング環境効果について解析では、溶液の水の活量変化に注目し、分子環境の効果を解析した。その結果、これまで生化学実験の標準溶液中では、ダングリングエンド部位はRNAの構造を単に安定化させるのみと考えられていたが、ダングリング部位とW・C塩基対部位の水和構造の違いから、溶液環境変化に応じて変化する水の活量に敏感に応答し、RNAの構造安定性を変化させることがわかった。また、生体膜モデルであるリポソーム上での核酸の標準塩基対であるW・C塩基対からなる二重鎖とH塩基対をもつ四重鎖構造についてのでは、リポソーム表面でのDNAの構造を熱力学的パラメータ(DNA構造形成時のΔHoとΔSo値)からDNA構造を見積もり、膜表面のコリンイオンとグアニン塩基の相互作用により、四重鎖が大きく不安定化することを突き止めた。 さらに、リン酸二水素型コリン水和イオン液体(IL)中での核酸構造安定性については、核酸構造とカチオンのsolvent accessible surface area(SASA)に着目することで、W・C塩基対とH塩基へのカチオンの結合エネルギーとこれらの構造のSASAに相関があることを見出した。以上のように、複雑な溶液環境下での核酸構造安定性をエネルギーレベルで解析することで、核酸構造に及ぼす溶液環境の効果を見積もるための指標を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、対象とするDNA及びRNA構造を、がん化に関わるi-motif構造や三重鎖構造とする。これらの核酸構造に及ぼす極限環境の効果は、紫外可視分光光度計、円二色性分散計により、DNAの融解曲線を測定し、この融解曲線から、DNA及びRNA構造の熱力学的パラメータを算出する。これらの知見を基に、極限環境の影響をエネルギー的(ΔHo、ΔSo、ΔGo37)に考察する。 極限環境が核酸構造に及ぼす影響をさらに詳細に解析する“知る研究”と共に、得られた知見を基に、塩基対の安定性を溶液環境によって制御してDNAの構造をダイナミックに制御するDNAナノスイッチの構築を試みる(“使う研究”)。例えば平成26年度には、W・C塩基対からH塩基対形成への構造スイッチを活用することにより、一塩基多型の検出を行う研究に着手した(生体機能関連化学部会 ニュースレター, 29, 11, 2014)。本年度はこれまでの研究成果により、IL中での核酸構造を簡便に制御できることが期待できることから、IL中で高感度に機能するDNAセンサーの開発を試みる。さらに、得られた知見を基にDNAナノスイッチの構築を試みる。DNA構造制御の第一歩として、スイッチ機能を持つ三角型のDNAタイル構造を基本構造として作製する。タイル構造の塩基配列は、DNAコンピュータやDNAモーターとして活用された実績のあるDNA配列を参考として設計する(C. Mao, et.al., J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 8626など)。これらのDNAタイルの構造変化は、蛍光観測、ゲル電気泳動、原子間力顕微鏡などで確認する。この構造を基にしたナノ構造体に金ナノ粒子やカーボンナノチューブなど配置を制御することで機能を発揮する分子を修飾できれば、環境に応答して機能を発揮するDNAナノ構造の構築が可能であると期待できる。
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Causes of Carryover |
H26年度の研究において極限環境下におけるDNA及びRNA構造を予測するための指針を得た。H27年度は疾患に関わるまたなナノテクノロジー分野で活用されてるDNA及びRNA構造に及ぼす極限環境の効果を網羅的に解析する。そのために、H27年度初期に合成DNA及びRNAをまとめて購入する予定であり、その購入費としてH26年度の消耗品費の一部をH27年度に使用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ガン化や成長因子に関わるFOXO1、VEGF、BCL2遺伝子やヌクレオリンのアプタマーAS1411-DNAなどの核酸構造の非標準構造形成部位のDNA及びRNA配列、また、DNAセンサーの検出対象となるHIVなどのウィルス由来のRNA配列を購入予定である。
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Research Products
(24 results)