2014 Fiscal Year Research-status Report
内部量子効率100%を示す蛍光性有機EL素子の創成
Project/Area Number |
26810110
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野谷 一 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90633412)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 有機EL / 熱活性化遅延蛍光 / エネルギー移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱活性化遅延蛍光分子(以下、TADF分子)の三重項励起子を一重項励起子にアップコンバージョンする技術をさらに発展させ、蛍光分子を発光材料とする有機EL素子中にTADF材料をアシストドーパントとして有機EL素子の発光層中へ分散することで、電気励起下でTADF分子上にて生成された三重項励起子と一重項励起子を、すべて蛍光分子へエネルギー移動させることが可能であることを見出し、ほぼ100%の効率で蛍光分子からの発光を得ることに成功した。特に、TADF分子であるPXZTRX(Chem. Comm. 48, 11392-11394 (2012))をアシストドーパント、TBRb(Thin Solid Films. 496, 626-630 (2006))を蛍光色素として用いた有機EL素子において、最大外部量子効率18%を得ることに成功した。 有機EL素子の耐久性に関しては、TADF分子を発光分子とした有機EL素子と比較し、2.5倍以上に達する素子耐久性の向上が可能であることを明らかにした。発光量子効率および発光寿命などの各種光学物性評価に基づき、各種のTADF分子における三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差速度(kRISC)を算出した結果、10^5 sec-1程度の速いkRISCを有するTADF分子において、顕著な素子耐久性の向上を実現可能であることを見出した。これは、速いkRISCにより、有機EL素子の発光層中に生成・蓄積される三重項励起子密度が減少したためであると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度研究計画では、TADF分子を蛍光有機EL素子のホスト材料として用いる計画であったが、研究を進める中で、本提案のエネルギー移動過程を有効に活用し、EL発光効率の向上を実現するためには、①TADF分子と蛍光分子間の平均分子間距離を制御し、Dexterエネルギー移動過程を抑制する必要があること、②TADF分子間で生じる濃度消光現象を抑制することの2要件が重要な因子であることを見出した。そこで、TADF分子をアシストドーパントとして用いる素子構成を提案し、研究目標の実現を目指した。 結果、青・緑・黄・赤色を発する蛍光分子を発光材料とし、各蛍光分子の一重項励起準位に対し、励起エネルギーを移動可能なTADF分子をアシストドーパントとして用いることにより、電流励起により生成されたすべての励起エネルギーを蛍光分子へとエネルギー移動させることに成功した。結果として、内部量子効率100%で発光する蛍光有機EL素子を創出した。またさらに、本研究提案のエネルギー移動過程を利用し、外部EL量子効率12%を示す白色蛍光有機EL素子を実現した。 素子寿命に関しては、TBRb分子を発光中心とした蛍光有機EL素子において、3,500時間を超える素子寿命を得ることに成功している。しかしながら、青色蛍光有機EL素子での素子寿命は、現状100時間程度に留まっている。この要因としては、高い三重項励起エネルギーを閉じ込めるために必要な、ホスト分子の電気化学的安定性が不十分であるためと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
燐光有機EL素子に匹敵する外部量子効率を、蛍光有機EL素子においても実現したが、その素子耐久性は不十分である。これまで大きなkRISCを示すTADF分子を用いることで、素子耐久性の向上が可能であることを見出してきた。今後、kRISC =10^6 sec-1を示すTADF分子の設計・合成を優先的に進め、数値目標の達成を目指す。
|
Causes of Carryover |
本年度は、既に報告されている熱活性化遅延蛍光材料の光物性解析および蛍光有機EL素子への適用について重点的に研究を実施した。そのため新規熱活性化遅延蛍光分子の合成については一部遅れが生じている。しかしながら、本年度の研究を通し得られた知見を元に、次年度は新規分子の合成を加速させる計画である。 また、当初計画では有機EL素子用の基板およびマスクを整備する計画であったが、作製装置の導入に遅れが生じたため、本年度での整備を見送り、既存設備を利用し研究を実施した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては、本年度で得られた知見を元に、当該助成金により合成試薬を購入し、新規有機発光分子の合成を加速する計画である。また、有機EL素子作製装置の導入が完了したため、200mmサイズのガラス基板および対応するフォトマスクの整備を速やかに実施し、有機EL素子開発を加速させる計画である。
|