2014 Fiscal Year Research-status Report
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26810115
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
伊藤 大道 愛媛大学, 理工学研究科, 講師 (40363254)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高分子微粒子 / 表面機能 / 表面構造 / 精密制御 / 刺激応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
数百~数千nmの粒径をもつ高分子微粒子は、総表面積が大きい上に利便性が高いことから、多方面で使用されている重要な高分子材料である。近年ではサイズの制御だけでなく表面構造にも機能化と精密制御が求められているが、高分子微粒子の表面ナノ構造は測定が困難であるため理解が進んでいない。そこで本研究は、機能性高分子が表面に結合した単分散高分子微粒子を対象に、微粒子コアのサイズだけでなく表面構造をもナノレベルで制御するための知見を得ることを目的としている。 高分子微粒子の合成法には分散重合法を採用し、表面を修飾する機能性高分子にはポリ(α-L-グルタミン酸)もしくはポリ(α-L-リシン)を選んだ。分散重合法はサイズが著しく揃った単分散高分子微粒子を得ることのできる優れた方法である。また、ポリ(α-L-グルタミン酸)とポリ(α-L-リシン)は、生体適合性や刺激応答性といった高い機能をもつだけでなく、定量可能で分子構造の明確なものを合成できるので、機能性高分子微粒子の表面ナノ構造の精密制御を検討する系として適している。 これまでに、ポリ(α-L-グルタミン酸)もしくはポリ(α-L-リシン)が表面に結合した単分散高分子微粒子の開発に成功した。また、前者の系では粒径の制御だけでなく、ポリ(α-L-グルタミン酸)の表面結合密度も制御できることを明らかにした。さらに詳細な検討を行い、微粒子コアおよび表面構造の形成メカニズムについて考察した。このように、高機能で精密な高分子微粒子を提供できただけでなく、微粒子の表面構造の形成過程について定量的に考察をすることができたことは、機能性高分子微粒子の応用と基礎との両面に貢献しており、学術的に意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、表面にポリペプチドがグラフトした高分子微粒子の開発、サイズ制御、さらには表面ナノ構造の解明と制御を目的としている。平成26年度中には、1.グラフト剤としてのポリペプチドマクロモノマーを開発し、2.ポリペプチドマクロモノマーの存在下でスチレンの分散重合による該微粒子の一段合成について動力学的考察を行うことを計画していた。 1.ポリペプチドにはポリ(α-L-グルタミン酸)もしくはポリ(α-L-リシン)を採用し、これらからなるマクロモノマーの精密合成をそれぞれ検討した。いずれも構造の明確なポリペプチドマクロモノマーの合成に成功し、後者の分子量制御には課題が残ったものの、前者は分子量の制御も可能にした。 2.前述のポリ(α-L-グルタミン酸)マクロモノマーとポリ(α-L-リシン)マクロモノマーとのいずれもがスチレンの分散重合に適した分散安定剤であることを明らかにし、表面がこれらで修飾されたポリスチレン微粒子を一段で得ることにそれぞれ成功した。得られた微粒子は、これらのポリペプチドの機能を反映した刺激応答挙動を示したことから、本研究が対象とする機能性高分子微粒子であることが確認できた。ポリ(α-L-グルタミン酸)マクロモノマーを用いた分散重合については詳細にデータを得て、微粒子の粒径を制御しつつ、表面にグラフトしたポリ(α-L-グルタミン酸)の密度の制御を達した。さらに、得られた新たな知見をもとに、機能性高分子微粒子の表面ナノ構造の制御を目的とした動力学的考察を行った。 また、平成27年度以降に研究の対象となる微粒子の合成にも着手しており、既に学会で報告しているものもある。 以上より、平成26年度はおおむね順調に研究を遂行できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度はポリ(α-L-グルタミン酸)マクロモノマー存在下での分散重合を通して、汎用のモノマー種であるスチレンを原料として合成した真球状高分子微粒子を対象にして、新たな知見を得てきた。これを踏まえて平成27年度以降は次の3点を実施する。 1.微粒子コアの多様化:ポリ(α-L-グルタミン酸)マクロモノマー存在下での分散重合による表面ナノ構造の制御範囲を明らかにすることを目的とし、微粒子コアに用いるモノマー種の多様化を当初の計画通り検討する。具体的には、光学異方性をもつ微粒子コアや、真球状ではない異型微粒子を対象として、微粒子形成の可否や表面の制御範囲を検討する。 2.微粒子表面の多様化:平成26年度に得られたポリ(α-L-リシン)マクロモノマー存在下での分散重合を詳細に検討する。ポリ(α-L-リシン)マクロモノマーの合成には一次構造の制御にいくつか課題が残っており、微粒子のサイズと表面構造の制御範囲にも制約があることがわかってきているが、ポリ(α-L-リシン)にはポリ(α-L-グルタミン酸)にない機能をもち、改質も容易なことから、表面ナノ構造の制御を通した高分子微粒子のさらなる高機能化の可能性を検討する。 3.表面グラフトポリペプチドのコンホメーション:ポリペプチドはα-ヘリックスやランダムコイルなど特徴的なコンホメーションを形成するため、微粒子の表面ナノ構造の精密制御には微粒子表面に結合したポリペプチドのコンホメーションや刺激応答に関する情報が欠かせない。しかし、高分子微粒子の粒径が大きいため、表面ポリペプチド鎖のコンホメーションを直接観察することは事実上不可能である。そこで、当初の計画通り、サイズが一桁以上小さいシリカナノ粒子にポリペプチド鎖をグラフトさせることで系全体に対する表面ポリペプチド鎖の組成を大きくし、コンホメーションの検討を別途行う。
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Causes of Carryover |
消耗品の購入量が当初予定よりも少なかったことが主な理由であるが、研究の必要に応じて最小限のものを購入した結果であり、現在のところ研究はおおむね順調に進行している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
表面ナノ構造を制御した高分子微粒子の合成のための試薬やガラス器具、成果発表のための国内旅費、英語論文校閲のための謝金や、文献複写費などとして、次年度研究費と合わせて使用する計画である。
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