2014 Fiscal Year Research-status Report
原子シミュレーションによる金属の変形素過程の定量的評価手法の確立
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26820008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浦長瀬 正幸 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 特定研究員 (00512766)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 転位 / 原子シミュレーション / マグネシウム / 活性化自由エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では原子シミュレーションにより主にマグネシウム単結晶中での底面・柱面すべり転位生成に対して熱活性化現象として定量的評価を行った。ただし通常の分子動力学法では時間的制約のため、ひずみ速度を実際に行われている実験に比べて非常に大きくするなど現実と乖離した条件を用いざるをえない。本研究ではメタダイナミクス法を用いて比較的大きな活性化自由エネルギーを有する熱活性化現象の原子シミュレーションを行った。 まず、メタダイナミクス法から得られた転位生成過程と分子静力学法との比較、ならびにメタダイナミクス法から評価される活性化自由エネルギーと単純な理論との比較を通して本研究で用いた手法の妥当性の検討を行った。 上記の妥当性の確認後、転位生成の応力・温度依存性について検討を行った。応力依存性については活性化自由エネルギーのせん断応力依存性についての離散的なデータから単純な関数形のフィッティングを行うことで実際の実験に対応する時間スケールで転位を生成させるのに必要な応力の見積もりを行った。また、従来は無視されがちである垂直応力が転位生成に与える影響についても系統的な検討を行った。温度依存性からは活性化自由エネルギーをエンタルピーによる寄与とエントロピーによる寄与に分割することができ、これらの間に”エンタルピー・エントロピー補償”と呼ばれる他の種々の熱活性化過程でも見られる関係が成立していることを示した。 さらに結晶の不均一性が転位生成に与える影響を調べるための予備検討として、円柱型マグネシウム単結晶の圧縮・引張試験の分子動力学シミュレーションを行い転位や双晶の生成過程の観察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究目的は以下の二つに分けられる。なお本年度は六方最密構造を有する結晶中のすべり転位生成を研究対象としている。 A)変形素過程の定量的評価にメタダイナミクス法を適用することの妥当性の検討 研究実績の概要に示した通り、本手法を分子静力学法や単純な理論など理想化された条件で得られる結果と比較し妥当性を確認している。また、銅単結晶ではNudged Elastic Band法による温度0Kでの転位生成の評価やアンブレラサンプリングによる活性化自由エネルギーの評価が先行研究で行われており、それらの結果と本研究で用いた手法の結果との比較も行っており、本手法の妥当性の検討は十分といえる。 B)メタダイナミクス法による変形素過程の定量的解析 マグネシウムの底面・柱面すべりの応力・温度依存性について系統的に評価を行い、垂直応力が転位生成に及ぼす影響やエンタルピー・エントロピー補償についての検討など物理的な洞察を含んだ解析が行えている。ジルコニウムやチタンなど他のHCP金属への適用に関しては不十分であるが、これについては同様の手法を適用するのみであるので平成27年度に行うことは十分可能である。 さらに、平成27年度での研究を予定している双晶変形や不均一な領域からのすべり転位生成についての予備検討も行っており、現段階ではおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は双晶生成・不均一な領域からのすべり転位生成・FCC金属への本手法の適用を研究のテーマとする。後者の二つについては本年度の成果を直接適用するのみであるため、研究対象を上手く設定し学術的に興味深い結果を得ることが重要であると考えている。そこで、近年盛んに研究が行われているバルクナノメタルやマイクロピラーを念頭に置いて研究を進めていく。それらの材料では結晶粒内の転位が枯渇し粒界や自由表面などの面欠陥が転位生成の核として重要な役割を果たす。従って、本研究でも面欠陥からの転位生成に着目して研究を実施する。またFCC金属としては銅やアルミニウムは実用上重要で、かつ先行研究も数多く行われており、研究の位置づけが比較的容易であることからこの二つの金属を主に取り扱う。 双晶変形については予備検討は実施しているものの、メタダイナミクス法を適用するための変数を設定し、妥当性の検討を行う必要があるため時間を要すると考えられる。そのため、本課題ではマグネシウムに限定して着実に研究を進展させる。まず予備検討で行っている分子動力学シミュレーションを用いた解析をさらに進めて、双晶変形中の原子の変位からメタダイナミクス法で用いる変数の選定を行う。そしてマグネシウムでよくみられる{-1101}双晶と{-1102}双晶についてメタダイナミクス法による活性化自由エネルギーの定量的評価を行う。
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Causes of Carryover |
研究計画時の申請額と実際に受領した額に差が生じたことにより助成金使用について再検討を行った結果、強く参加を望む国際会議が平成27年度に複数あり、平成27年度の使用額が助成金を上回ることが濃厚であったため平成26年度の助成金の使用をやや控えるように計画を立て直した。具体的には、物品については平成26年度は現在所有のもので賄えることが予想できたため購入を控え、また大学のスパコンシステムの利用をさらなる計算資源の確保が必要となる10月からにしたため平成26年度は残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費(外国、国内)、学会参加費、大学のスパコンシステムの利用負担金(4月より)、論文投稿時の経費(投稿料、英文校閲料)、デスクトップパソコンやデータ保存用のハードディスク、その他消耗品の購入に充てる。
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