2014 Fiscal Year Research-status Report
多結晶金属の塑性変形による結晶格子回転機構の解明とメゾスケールモデリング
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26820012
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
只野 裕一 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00346818)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 結晶塑性 / 格子回転 / 多結晶 / FCC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は特定の材料に焦点を当てたものではないが,実験との比較においては具体的な材料を対称とする必要が有るため,研究課題期間中にはFCC金属であるアルミニウム合金を用いることとした.これは,全てのすべり系が等価なFCC金属を用いることで,理論考察における問題の単純化と実験における現象の明確化が可能となり,実験と理論の比較において現象の本質が抽出しやすいと考えられるためである. 平成26年度前半に,理論検証に必要な解析および実験条件についての調査を行った.特に,結晶塑性解析を用いた理論検討において必要となる,代表体積要素(RVE)の選定に関する検討を行った.解析精度と計算コストのトレードオフの関係にあり,また来年度は多数のケーススタディを実施する計画であるため,実用上必要十分な結晶粒数について慎重に検討し,一定の知見を得た.得られた知見をもとに複数の代表体積要素を用意し,統計的な数値解析結果の比較検討を開始した.具体的には,結晶粒形状,結晶粒の大きさ,結晶方位(シュミットファクター),の3因子を考慮した複数のRVEを用い,これに対して同一の巨視的境界条件下(例えば単軸引張)を課し,その材料応答をそれぞれ求め統計的なデータ収集を行った.これを通じて,次年度の研究において参照結果とする実験および数値解析結果を求めることができた. 年度後半より,本研究課題の中核となる多結晶塑性モデルによる数値解析を開始した.報告されている実験結果と同じ多結晶構造(結晶粒形状および結晶方位)を有する有限要素モデルを新たに作成し,可能な限り実験と同等の条件による解析を実施した.これにより,実験と定性的に一致する結果が得られ,次年度に向けての解析手法および解析モデルの基板を構築することができたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は,本研究の遂行に必要となる解析モデルの整備と,解析モデルの構築,および基礎的な検証解析の実施を主な計画としていた.前述の通り,年度前半に理論検証に必要な解析および実験条件についての調査を行い,年度後半より本研究課題の中核となる多結晶塑性モデルによる数値解析を開始した.実験結果に基づく新たな解析モデルも構築し,実験結果を定性的に表現できるモデルであることが確認できた.これにより,来年度の研究推進に必要な基盤をほぼ予定通り構築することができたと考えられる.以上より,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度より引き続き,実験観察による格子回転と多結晶塑性モデルによる数値解析の比較を実施し,得られた知見に基づく新たな結晶格子回転則を提案する.今後の研究推進における中核として,従来理論の適用可能範囲の明確化と,新たな結晶格子回転則に提案が挙げられる. 平成27年度前半は,平成26年度に構築した解析手法と解析モデルを用いた詳細解析を実施し,報告されている実験結果との定量比較を通じて,従来理論の適用可能範囲を明確化する.平成26年度の検討において,FCC金属多結晶体内において,必ずしも初期方位に対するシュミットファクターが最大となるすべり系が活動するとは限らず,結果的に格子回転方向も古典理論では十分に説明できないことが確認されている.これは,実験的に観察される現象とも整合する.このように,従来理論では十分に説明できない格子回転が発生する条件を,体系的に整理する.これに加えて,複数のすべり系が活動する結晶粒に着目し,2次すべり系における格子回転量が理論予測と一致する場合としない場合を明確化する必要があると考えられる.これにより従来理論が成立しない条件を抽出し,その支配因子(応力等の力学的条件,結晶形状等の幾何学的条件などが予想される)を見出す. 以上で抽出した従来理論が成立しない際の支配因子を考慮し,従来理論の結晶格子則を修正することを試みる.支配因子は力学的因子と幾何学的因子のいずれか,もしくはその両方が考えられるが,これらを結晶塑性モデルの枠組みに合理的に導入し,修正された格子回転則(結晶塑性モデル上では結晶基底の発展式)を提案する.提案した回転則による予測結果を実験結果と定量的に比較し,提案理論の妥当性を検証する.多結晶金属の格子回転機構の解明へ向けた課題を抽出し,本研究課題を総括する.
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Causes of Carryover |
物品費のうち,備品であるワークステーションについては当初計画とほぼ同額の使用であったが,消耗品について計画よりも支出額が少なかったことが理由である.これは当初予定していたケーブル類の一部や外部記憶装置について,平成26年度中に購入の必要が生じなかったためである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の未購入消耗品(ケーブル類および外部記憶装置)は次年度中に必要となると予想されるため,次年度使用額はその購入に充てる計画である.
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