2015 Fiscal Year Research-status Report
計算科学シミュレーションを活用した化学機械研磨用スラリーの理論的設計
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26820029
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾澤 伸樹 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (60437366)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 化学機械研磨 / 量子化学 / 分子動力学法 / 第一原理計算 / メカノケミカル反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子機器用に用いられるガラス材料には原子レベルの精密な平坦性が求められており、酸化セリウム(CeO2)砥粒を水に溶かしたスラリーによる化学機械研磨(CMP)が行われている。しかし、セリウム(Ce)は海外でもごく一部の地域に偏在しているため安定供給が難しく、Ceの使用量低減が強く求められている。そこで、セリウムの使用量を低減可能な新規代替砥粒及び、その研磨性能を向上させるための手法の計算科学シミュレーションによる理論的設計が求められている。また近年、CeO2クラスターをTiO2上に担持したナノ粒子が開発されており、ガラスに対して高い研磨能力を示すことが実験的に明らかにされている。そこで、代替砥粒の構造に関する知見を得るため、アナターゼ型のTiO2(001)上に担持したCeO2ナノクラスターの電子状態を第一原理計算によって計算し、ガラス表面に対する活性について検討した。最初に、TiO2(001)上に、39原子相当のCeO2クラスターを配置し、構造最適化を行った。その結果、CeO2クラスターのCe原子は1.46 eの値をとった。これは、CeO2バルク中の4価のCe原子は1.71 eの電荷をとっており、TiO2表面上のCeO2クラスター中では、さらに低い価数をとることを示す。これまでの研究から、ガラスCMPを効率よく進めるためには、CeO2砥粒からの電子供与によってガラスの結合を弱めることが重要であり、また砥粒表面上のCe原子が低価数状態であることが必要であることを提案している。つまり、TiO2(001)上に担持したCeO2ナノクラスターは、ガラスに対して純粋なCeO2よりも高い電子供与が可能であることを示唆した。また、CeO2クラスター及びTiO2表面上に酸素欠陥を作成した場合、酸素欠陥が無い場合よりもわずかにCe原子の電荷が減少し、Ce原子がより低価数になることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、ガラスの化学機械研磨に用いられる酸化セリウム(CeO2)の使用量低減に貢献するため、酸化セリウム砥粒に対する新規代替砥粒及び、新規代替砥粒を水に溶かしたスラリーの研磨性能を向上させる分散剤について、計算科学シミュレーションを活用して理論的に設計することを目標としている。これまでの研究において、砥粒による化学反応によってガラスの結合を弱めるためには、砥粒表面に金属原子を露出させ、また露出した金属原子は低価数状態であることが必要であるという代替砥粒の設計指針を提案している。ここでガラスの化学機械研磨プロセスにおける代替砥粒の化学反応活性を検討するためには、第一原理計算が有効である。そこで、Ce使用量低減に貢献することのできる代替砥粒の構造に関する知見を得るため、高い研磨性能を有することが実験的に示されている、CeO2クラスターをTiO2上に担持したナノ粒子に着目し、第一原理計算によって、ガラスに対する化学反応活性を検討した。電子状態を調べた結果、TiO2表面上のCeO2クラスターは、純粋なCeO2表面よりも低価数状態であり、ガラス表面へ電子供与しやすいことを明らかにした。また、CeO2及びTiO2表面に酸素空孔を生成することでさらに低価数状態になり、ガラス表面への電子供与がより起こりやすくなることで、化学反応活性が向上する可能性があることを示唆した。以上の結果は、ガラスの化学機械研磨に最適な研磨砥粒のナノ粒子構造の提案といった、希少金属であるCeの使用量を低減可能な新規代替砥粒の理論的設計に貢献するものであり、以上より本研究における進捗状況はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は、CeO2砥粒に対する新規代替砥粒の構造に関する知見を得るため、TiO2表面上に担持したCeO2ナノクラスターのガラスに対する化学反応活性を評価した。それに対し、今年度はTiO2に対するN原子やB原子などの添付物が、TiO2表面上に担持したCeO2ナノクラスターのガラスに対する化学反応活性に与える影響を明らかにする。また、ガラスの研磨には砥粒を水に溶かしたスラリーが用いられており、スラリー中には砥粒を分散させるために分散剤が添加されている。しかし、必ずしも研磨性能が向上するわけではなく、砥粒の研磨性能を劣化することなく分散させる研磨用スラリーのための分散剤を開発する必要がある。そこで、高い研磨性能を有するスラリーの理論的設計に貢献するシミュレーション技術を確立することを目標として、代替砥粒スラリーにおける粗視化分子動力学法シミュレーションを行う。ここでは、代替砥粒、溶媒を水、分散剤をポリアクリル酸、ポリビニルといった高分子として、それぞれの分子を粗視化した粗視化分子動力学法に基づく分散シミュレーションを行う。そして、砥粒の化学反応サイトを埋めること無く砥粒を効率良く分散させる砥粒と分散剤の組み合わせを検討する。対象としては、これまでに検討を行ってきたCeO2クラスターをTiO2上に担持したナノ粒子やペロブスカイト型酸化物砥粒、分散剤中の高分子を粗視化して、粗視化分子動力学法に基づく分散シミュレーションを行い、研磨に有効な分散剤の組成を検討する。ここで、砥粒と高分子間のポテンシャルパラメータは第一原理計算によって決定する。そして、第一原理計算によって得られた研磨砥粒のガラスに対する化学反応活性の検討結果と、粗視化分子動力学法による分散状態の検討結果に基づいて、研磨砥粒と分散剤を組み合わせを最適化することで、高い研磨性能を有するスラリーの理論的設計を行う。
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Research Products
(6 results)