2015 Fiscal Year Research-status Report
回転ディスクによるエンクロージャ内流れに挿入された物体まわりの流れと流体力の解明
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26820048
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
白井 克明 神戸大学, 先端融合研究環, 助教 (00634916)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 積層円盤による回転流れ / 非軸対称容器内の流れ / 流れの可視化 / 屈折率整合 / 粒子画像流速計(PIV計測) / 流体力 / 渦運動 / 2次流れ |
Outline of Annual Research Achievements |
容器内で回転円盤に駆動される流れは、流体機械等のエネルギー変換機器からハードディスクドライブ(HDD)等の情報ストレージ機器まで幅広く見受けられる。この流れは回転軸および半径方向の速度勾配に加えシュラウド壁面に発達する境界層により、非定常で3次元性の強い複雑な挙動を生じて機器の諸性能に影響を及ぼす。本研究課題では、開口部を有する非軸対称容器内の積層回転円盤に駆動される流れにアーム状の挿入物を入れた際の流れの挙動と、挿入物に働く流体力を調べている。 2年目の研究では、1年目に構築した粒子画像流速計(PIV)システムを用いて主に速度場計測を実施した。また、連続発振レーザーとカリロスコープ粒子を用いて流れの可視化を行った。HDDを模擬してシュラウド開口部を備えた非軸対称容器から成る透明実験モデルにアーム状の挿入物を設置し、作動流体に屈折率整合を施した。流れは容器内の2枚の同軸回転円盤に駆動され、数種類のレイノルズ数および挿入物の挿入角度、計測面で実験した。円盤に平行な断面内の2次元2成分の速度ベクトル場をPIV解析で求め、速度成分と渦度、せん断速度の分布を算出した。 PIV計測では、異なる計測断面で挿入物の挿入角度が流れに及ぼす影響を調べた。流れの周方向速度の挙動から、容器内で円盤の回転に伴う流れは周回中に加速と減速を繰り返すことが示され、以前に自身が実施した可視化実験で定性的に観察されたことが、今回の計測で初めて定量的に明かされた。速度成分の解析から、この流れの加減速は容器の非軸対称性を生み出す開口部と、回転流への挿入物による影響を受け、双方が異なるメカニズムで流れの加減速を引き起こすことが見出された。また渦度とせん断速度の分布から、流下に伴う渦層の発達に加え、強いせん断が形成される領域が見受けられた。さらにカリロスコープによる可視化では、微小な渦が挿入物の後流で捉えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題2年目は1年目に構築したPIV計測システムを活用し、円盤に平行な断面での流れ挙動を調べた。流れの特徴として、高速回転する円盤端からシュラウド開口部の停流まで幅広い速度を有するのに対し、本研究で使用するカメラは画素数が多くなく、PIV計測が可能な速度ダイナミックレンジに制約を受ける。そのため、円盤領域の高速流と開口部の低速流に分けて計測することに決め、2年目は円盤領域を重点的に計測した。開口部の計測は優先度が低いが、3年目に余裕があれば実施する。PIV計測を慎重に進め、円盤領域の流れについて信頼性の高い計測データ取得を目指した。速度場の空間解像度を決める検査領域のサイズを変えて実験し、計測結果の一貫性を確認するなど手間をかけた。また、流体の周方向速度が局所の円盤剛体回転速度を上回る領域が途中で見出され、当初計画しなかったが時間を割いてそのメカニズムの解明に繋げた。さらにカリロスコープ粒子を用いた可視化も当初計画になかったが、以前には観察されなかった細かい渦挙動の観察に繋がった。 2年目のうちに円盤に垂直な断面で流れの可視化とPIV計測を開始する計画だったが、至らなかった。流れの数値解析に関しては、円盤垂直断面のPIV計測の結果が出る前に速度場を得て流体力を算出する予定だったが遅れている。2年目に商用設計ソフトウェアに付属の流れ解析ツールを用いて試みた解析は制約が多く困難で、現在はオープンソースで自由度の高いOpenFOAMを導入して解析を進めている。本研究は実験主体であることに加え、直接経費には制約があり、有償のソフトウェアを導入できるほど余裕は無い。代わりにPIV解析と数値解析のいずれにおいてもオープンソースのものを積極的に活用し、研究者の知恵と努力、工夫で困難を何とか乗り切っている。 ゆえに、慎重に進めるなど時間がかかった部分もあるが、全体的には順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題3年目には、回転円盤に垂直な断面に関して流れの可視化とPIVによる速度場計測を実施し、得られた周囲の速度場情報を基に挿入物に働く流体力の評価を目指す。流体は挿入物に垂直応力とせん断応力から成る流体力を及ぼし、その非定常挙動がPIV計測による周囲の速度場から求まれば、回転流れと挿入物の相互作用に関して知見が得られる。 まず、これまで回転円盤に平行な断面の流れ挙動に着目してきたのに対し、垂直断面の流れを調べる。レーザーシート光を円盤垂直平面に照射し、シャインプルーフ原理に基づき斜め上方から、照射された垂直断面を観察する。軸対称容器内の積層回転円盤による流れに関する過去の多くの研究で、回転軸を含む垂直断面で2次流れの形成が報告されている。本研究の非軸対称容器でも特定の挿入角で2次流れの形成が予想される。挿入物の挿入角度を変えて2次流れの存在を確かめ、PIV解析で2次流れの挙動を調べる。 次に、PIV計測で得られた挿入物を含む断面の速度場から、挿入物に加わる流体力を算出する。流れに置かれた物体に働く流体力の算出に関しては、既に提案されている種々の手法がある。本研究では2次元2成分のPIV計測による速度場情報を当てはめる。算出された流体力の妥当性を検証した後、円盤平行および垂直断面の両方で挿入物に働く垂直応力とせん断応力を求め、異なる挿入角度での非定常挙動を調べる。 また、実験と並行してOpenFOAMを用いた数値解析を進め、挿入物に働く流体力を評価する。実験モデル形状を取り組み、実験と同様の条件で3次元の解析を行い、PIV計測の結果と比較する。 さらに、3年目は本研究課題の最終年度であり、学会発表に加え研究成果をまとめ、論文として公表する。国内学会は日本機械学会、国際会議は欧州機械学会の流体会議等で成果を報告する。査読論文は日本機械学会論文集と国際英文誌への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
本研究課題の最終年度となる3年目の直接経費配分が元々20万円と少ない。3年目の研究遂行を考慮し、2年目の直接経費の一部を敢えて3年目に残すよう努めた。これは2年目に研究費が余った訳ではなく、研究遂行費用の一部を研究代表者の所属研究機関からの予算で賄うことで可能となった。本研究課題は実験を主体とするテーマであり、3年目にも引き続き実験で屈折率整合を行う際に薬品や粒子を使用することに加え、3年目に予定する実験では新たな機械材料や部品などの消耗品の購入が必至である。さらに、3年目には研究成果を発表すべく国際会議等の学会参加や論文出版のための費用が生じることが予想される。したがって、2年目の直接経費支出を節約し、研究費を3年目に一部残すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3年目には、新たに垂直断面での観察と計測を計画しており、実験装置の一部を組み替える必要がある。具体的にはパルスレーザー照射光の入射断面を円盤平行断面から垂直断面に変更し、シャインプルーフの原理を用いたカメラ配置で取り組む。前者の照射光の変更に関しては既存の装置の調整で対応が可能と予想される。他方、後者の新たなカメラ配置は既存装置で実現できず、材料や部品を新たに購入せねばならない。また、シャインプルーフ原理に基づく観察で、カメラの位置・角度の調整機構として精密ステージの導入が必要と考えられる。さらに、3年目は本研究課題の最終年度で、研究成果を国内学会や国際会議で発表し、研究論文として発信する予定である。よって、2年目に一部使用せず3年目に残した直接経費は実験消耗品の購入と学会参加費用、論文出版費用の一部で使用する。
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