2014 Fiscal Year Research-status Report
サブミクロン領域における近接場熱ふく射現象の解明と放射率可変デバイスへの応用
Project/Area Number |
26820058
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 藍 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (50647211)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 近接場効果 / 熱ふく射制御 / MEMS / 静電アクチュエータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,大きな熱エネルキー輸送が可能な近接場放射を用いて,小型,軽量かつ低電圧駆動する宇宙用放射率可変型の MEMSラジエータ(熱スイッチ)の実現である.H26年度は,主に①サブミクロンギャップ形成手法の確立,②新たな高開口率を有するデバイスモデルの提案と設計,③デバイス試作と評価を行った. ① サブミクロンギャップ形成手法の確立:近接場効果では黒体ふく射を超える大きな熱輸送量が特徴であり,その効果が顕著になる領域は平行平板間のギャップが1μm以下の時である.しかし,現在の機械加工精度では表面粗さおよびたわみ等を考慮すると100nm程度のギャップ形成加工は極めて難しい.これに対し,本研究ではMEMS技術を用いてサブミクロンギャップを保持する平行平板デバイスの試作に成功した. ② 新たな高開口率を有するデバイスモデルの提案と設計:本研究では軽量かつ大きな放射熱量変化を実現可能な近接場効果を利用し,小型人工衛星の新たなラジエータを提案する.ラジエータの概要としては,基板に対してダイアフラム(放射面)がばねで上下に静電駆動するMEMSデバイスである.さらに,より大きな放射熱量変化を得るため隣接するダイヤフラムでばねを共有し,90%以上の高開口率を有するMEMSラジエータの提案と設計を行った.設計では,熱解析,作動電圧,共振周波数の解析により,ばねの幅,長さがMEMSラジエータの性能に与える影響を定量的に明らかにした. ③ デバイス試作と評価:上記の②で提案および設計を行ったデバイスの試作をMEMS技術を用いて行った.近接場効果を取得するため,ギャップは100nm,開口率は91%を保持するデバイスを試作し,表面形状測定によりギャップが維持されていることを確認した.さらに,デバイスの加熱実験を行い,従来のMEMSラジエータよりも大きい1.7倍の放射熱量変化が得られた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の交付期間中における目的は,1. サフミクロン領域(100nm 以下)における近接場効果による熱輸送現象を実験的に解明すること,2. 材料の違いによる近接場効果の定量化および最適材料の検証, 3. MEMS プロトタイプによる近接場効果の熱スイッチ応用への実験的評価,4. 熱スイッチの宇宙用テバイスとしての有用性評価である. 1. サブミクロン領域での近接場効果による熱輸送現象の実験的な解明については,先述した実施内容①と③が該当している.現在までにMEMS技術により100nmオーダーでギャップを保持するMEMSラジエータの試作を行い,加熱実験においてギャップが1μm以上(遠方場での熱ふく射)のときに対しギャップが1μm以下(近接場効果)になると放射熱量が1.7倍増加することを実験的に明らかにした.この値は,デバイス設計時に行ったダイアフラム面内の温度分布を考慮した詳細な伝熱解析の結果とおおむね一致している. 2. 材料の違いによる近接場効果の定量化および最適材料の検証については,先の実施内容①と②が該当している.近接場効果を定量的に評価するデバイスとしては,平行平板間のギャップ維持のため,熱伝導率の比較的小さい材料をピラーとして用いている.熱解析ではピラー部分からの平行平板面内への熱伝導も考慮し,近接場効果の定量化を行っている. 3. および4. MEMS プロトタイプによる近接場効果の熱スイッチ応用への実験的評価および熱スイッチの宇宙用デバイスとしての有用性については,先の実施内容③が該当している.従来のMEMSラジエータでは開口率が60%程度であったのに対し,本研究では隣接するダイアフラム面のギャップを保持するばね部を共有することにより,90%を超える開口率を持つラジエータの設計および試作に成功した.今後,実験結果を考慮し,さらにデバイスの信頼性の向上を目指す.
|
Strategy for Future Research Activity |
H27年度の主な研究計画としては, 1. サフミクロン領域における近接場効果の実証と最適材料の選定,2. 新たに提案したMEMSラジエータの試作および実験的評価, 3. MEMS ラジエータの宇宙模擬環境での評価である.また,H26年度の研究進捗から問題点や課題等が明らかになっているものについては,再度,改良を加えて再現性の高いMEMS熱スイッチの実現を目指す. 1. 近接場効果の実証と最適材料の選定では,現在までにMEMSラジエータに先がけて平行平板間にピラー構造を形成することによりサブミクロンギャップを実現するプロトタイプの試作をしており,MEMSプロセスを改良することにより1μm程度までの平滑な平行平板間ギャップ形成を実現している.今後はさらに最適材料の検証を行うため,MEMSプロセスとの整合性も考慮し,まずプロトタイプデバイスの試作を行い,作製手法の確立後,順次最適材料を検証していく. 2. MEMSラジエータの試作および実験的評価については,隣接するダイアフラム面に対しばね部を共有することで最大開口率が91%となるデバイスの設計および試作を行い,加熱実験においてもON/OFF時で放射熱量が最大で1.7倍変化する結果が得られている.しかし,ギャップを制御するアクチュエータ部に問題があり,今後改善が必要である.また,材料表面の放射率測定を行う際,より精度の高い評価を実現するため,実験装置の改良も行う. 3. MEMSラジエータの宇宙模擬環境での評価については,実験系での放熱特性評価の後,九州工業大学が保有する超小型衛星試験センターでの熱真空試験等を予定している. 従来の 放射率可変型ラジエータとの性能を比較し,本デバイスの有効性を放熱制御効果および重量等の観点から評価を行い,次世代型の宇宙用熱制御デバイスとしての最適化の指針を取得する.
|
Causes of Carryover |
H26年度では,近接場効果取得のための最適材料の選定,デバイスの提案と設計(解析含む),プロトタイプの試作を主に行っており,前半は解析が主となっており経費が予定より削減された.また,MEMSプロセスおよび実験も並行して行っていたが,加熱実験系については既存の部品をうまく組み合わせることで比較的安価に装置の改良が実現できた.MEMSプロセスでは研究室の施設および本学共有のクリーンルームを使用することで比較的安価にデバイス作製が可能となった. また,H26年度は本研究の研究成果を4年に1度に開催される伝熱分野最大級の伝熱国際会議(IHTC-15)で発表したが,国際会議であるが国内(京都)で行われたため,旅費が当初の予定より削減されたため.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究における設備備品,消耗品,旅費等の経費は必要最低限を計上している. 高価な装置が必要となるMEMSプロセスでは,東京大学のVDECクリーンルームの共有装置(電子線描画装置,FIB-SEM,ダイシング等)を利用することで,比較的安価にデバイスの試作が可能となる.また,より高精度で近接場効果を取得および評価するため,本研究で重要な加熱実験系の機構の改良も検討している.加熱実験系の評価装置を構築する際には真空チャンバ,チャンバ冷却用のチラー,BaF2ビューポート,高精度のプログラム温度コントローラ,熱流束センサおよび温度計測用のデータロガー等を計上している.また,高価な高分解能サーモカメラ(10μm/pic.),真空排気系(ターボポンプ,ロータリーポンプ,真空計)は以前に申請者が使用していた鈴木研室保有のものを併用する予定である.
|
Research Products
(2 results)