2014 Fiscal Year Research-status Report
カオスを用いたΔΣ型AD変換器の動作解析とその応用
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26820131
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井岡 惠理 青山学院大学, 理工学部, 助教 (50583564)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分岐 / ΔΣ変調器 / カオス解析 / パラメータの可視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
A/D・D/A変換器に用いられるΔΣ変調器の積分器出力から動作状態を推測するために,カオス解析と分岐解析を用いて変調器の積分器出力の解析を行った.本研究では,2個の積分器と量子化器から成る2次ΔΣ変調器を対象とした.ΔΣ変調器の積分器出力の状態によって量子化ノイズの分布の状態が変化するため,積分器出力の周期性の有無をカオス解析と分岐解析を用いて解析を行った.また積分器のリークの変化によって出力がリミットサイクル(安定な周期点),カオスと発散の状態を観測することができるカオスΔΣ変調器の出力の状態を調査した. カオスΔΣ変調器はディザ信号を用いることなくリミットサイクル発振によるアイドルトーンの抑制が可能であるが,変調後のSN比が劣化するなどの問題もある.またその際のリークの組み合わせについても積分次数が増加するとトーンの抑制可能なパラメータの組み合わせを決定することが困難になる. 我々の研究では,そのパラメータの組み合わせの可視化・定量化を目的として分岐解析によるパラメータ平面での出力の状態の変化,リアプノフ指数を用いてのカオスの定量化を行う. 現在までに積分器出力の分岐解析によって得られたパラメータ平面図と変調器の出力のFFT解析の結果を照らし合わせて,パラメータ平面図を用いて動作状態を推定する事が可能であることが確認できた.実際にパラメータ平面図でカオスを示すリークの組み合わせをΔΣ変調器に適用した場合に,信号が入力されていない状態(ゼロ信号)においてトーンの抑制を確認することができた.また,リアプノフ指数を用いたカオスの定量化についてもPG法による相関次元の推定から適切な埋め込み次元を推定し,実際の解析に適用した. これらの結果について,26年度に国内の研究会と国際会議で成果報告を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,分岐解析とFFT解析によってΔΣ変調器の出力とパラメータの依存性を可視化することに成功している.研究成果をまとめて,3回の研究会(うち学生による発表2回)と国際会議での発表を行った.したがって概ね計画通りに進んでいる. また,関数発生器を用いてC言語で記述したビヘイビアモデルの出力をスペクトラムアナライザで評価する事が可能なシステムを構築した.この評価システムではDACを用いる事なくビヘイビアモデルの出力をデジタル値からアナログ信号に変換できるため,スペクトラムアナライザやオーディオシステムを接続しての評価が容易に行える利点がある.この評価システムを用いたスペクトラムと聴音試験からも分岐解析から得られたアイドルトーンとパラメータ依存性の関係を実証できた.現在はこれらの結果をまとめて論文として研究成果を発表する準備を進めている. リアプノフ指数による積分器出力のカオスの定量化については,2次ΔΣ変調器の積分器出力についても概ね適用可能であることを示した.卒業研究としてリアプノフ指数解析を行う際に必要な遅れ時間と埋め込み次元について,前者は時系列データの自己相関をとり,後者についてはデータのGP法を用いて相関次元を推定することで埋め込み次元を求めた.これらの推定より埋め込み次元は4,遅れ時間は1とし,アトラクタの再構築を行いリアプノフ指数を算出した.その結果,2次ΔΣ変調器の出力の状態をリアプノフ指数によってカオスと非カオス(周期点)に分類することができた.これらの状態はシェーピング特性が確認できる状態とリミットサイクル発振が存在する場合に対応する. よって,26年度の研究は当初の計画通りに進んでいるため,概ね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
27年度には前年度の結果をまとめて研究成果報告を国際会議や論文を通して行う.さらにRaspberry Piを用いたミニコンピュータへリアプノフ指数解析のプログラムの開発環境を移行する.Raspberry Piの動作環境は前モデルの物でも問題なく動作したため,現行モデルのRaspberry Piを用いた場合には処理速度の向上が見込めると考えている.時系列データにリアプノフ指数解析を用いる場合の埋め込み次元についてはPG法での推定をすでに行っているが,データに含まれるノイズの影響に依存しない誤り近傍法を用いた場合の推定結果との比較を行う. また前年度の聴音による検証の際にスペクトルアナライザで確認できた複雑なスペクトラムを持つ雑音トーンが確認できる領域などでは,リアプノフ指数によるカオスの判定が困難であった.この時に観測された雑音トーンはシェーピングされたノイズではなく折り返しによって複雑に重なったリミットサイクル発振によるトーンである可能性が示唆される.現在,この複雑なトーンと分岐図で安定な多周期点が観測される領域でのスペクトラムとの比較を行い,発生メカニズムについても調査を行っている.この現象について今後は分岐解析の側面からのアプローチを検討するため,専門分野の協力者との打ち合わせを行い.解析方法を検討していく予定である.
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Causes of Carryover |
購入を予定していた図書に関して絶版などあったため26年度中での購入を見合わせた.Raspberry Piを複数台購入する予定であったが,27年に高機能なモデルが出るとの情報があったので26年度は購入を1台のみにした.FPGAについては,研究室にある物品での代用可能かどうかを検討したため26年度には購入しなかった.また国際会議のプロシーディングや発表原稿を英文校閲を依頼しなかったため,謝金については使用は0となっている.したがって,これらの理由から538,617円の次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に購入を見合わせていた図書及び,Raspberry PiとFPGAの評価ボードを購入する.また執筆中の論文と国際会議のプロシーディング及び発表原稿については英文校閲を依頼する.投稿論文については投稿料と別刷り料の発生が予定される.また,現在国際会議ECCTD2015に投稿しているので採択された場合は開催地であるノルウェーへ渡航する.論文執筆のために研究協力者との打ち合わせを行う.すでに協力者の許可も得ているため香川大学にて年度内に3回の研究の打ち合わせを行う.したがって,本年度予算においては過不足は生じないと考えている.
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