2014 Fiscal Year Research-status Report
水文学的アプローチによる流域スケールの河川健全度推定モデルの構築
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26820196
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
糠澤 桂 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(PD) (20725642)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | HSIモデル / 健全度 / 水文モデル / Maxent / 水温 |
Outline of Annual Research Achievements |
流域スケールの河川健全度を推定するために,精度良く水生昆虫群集の生息ポテンシャルを推定するモデルの構築が必須である.この目的のため,平成26年度は水生昆虫のサンプリングのみならず,これまで研究代表者の所属する研究グループにて構築した生息場適性指数(HSI)モデル(Nukazawa et al., 2011)の改良を行った.これは,分布型水文モデルの出力値である流速,水深の年間指標(年平均や年分散)や地理データに対する対象生物の選好性に基づいて,生息ポテンシャルを流域スケールで表現するモデルである.従来はモデル化手法に頻度分析を用いていたものにMaxent(Phillips et al., 2006)を適用し, AUC(Area Under Curve)値にて精度の比較を行った.結果として,Maxentを用いたHSIの方が高い精度であることを確認した. HSIモデルに使用する指標として,源流域における水生昆虫個体数密度の変化に対する水温指標の寄与度を評価することで,水温指標の検討を行った.対象とした源流域は人為影響が限りなく小さく,川幅,流量,植生,河床材料が類似する10地点から成る.このため,水温のみの水生昆虫群集に対する影響を評価する上で適した環境と言える.結果として,年平均水温や年最高水温はカワゲラ目等の水生昆虫の有力な予測因子であったが,最大増加率(Arscottら,2001)等の短期スケールを対象とした指標には高い相関は得られなかった. 水文データの解析について,得られた気象データに基づいて水文モデルを走らせて年間の日毎流速,水深,水温データを取得した.これにより,水生昆虫サンプルのある時期におけるHSIモデル構築のためのデータ整備は完了した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において,初年度は生物・環境データ整備の完了,生息場適性指数(HSI)モデルに使用する水文指標の選定を行うこととしていた.データ整備に関しては想定通りであった.しかしながら,水文指標の選定について,水温指標の検討は行ったものの水理指標については未検討である.一方,次年度以降に行う予定であったHSIモデルの精緻化に関する作業を前倒しで行ったため,総合的に判断して,「(2)おおむね順調に進展している」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は本研究課題の核となる水生生物の生息場適性指数(HSI)モデルの構築を主に進めてきた.このモデルは,分布型水文モデルの出力値である流速,水深の年平均・変動や地理的変数に対する生物の選好性に基づいて生息ポテンシャルを流域スケールで表現できる.平成27年度はまず,開発中の水生昆虫群集(50分類群程度)を対象としたHSIモデルの改良を行う予定である.具体的には,生息確率推定に複数の手法を採用し,精度比較をする.研究代表者の共著論文である高瀬ら(土木学会論文集B1(水工学),2013)においては,HSI構築において頻度分析,カーネル密度推定,線形回帰モデルを用いている.今後は,非線形回帰モデル,ニューラルネットワーク,あるいは種分布ソフト(e.g., Maxent, GARP)の適用も行う.その上で,生物指標による河川健全性指数をICI(Invertebrate Community Index)や平均スコア法(ASPT: Average Score Per Taxon)等を用いて流域スケールで表現することを目標とする.なお,求められた健全度指標が明らかに現実と乖離している場合,自然河川の環境傾度を利用して水生昆虫相を予測して自然河川の状況との相違から人為改変度を定量化するRIVPACS(River Invertebrate Prediction and Classification System)を代用する予定である.この場合,日本において人為影響の無い自然河川を多数選定するのは困難と考えられるため,調査のための旅費を今年度に前倒しで使用することも検討している.
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Causes of Carryover |
本研究課題は平成26年度においてデータ収集並びに研究協力者との打合せを要した.この行程は性質上不定回数行われるものであるため,これに係る旅費は予め想定したものと多少の誤差が生じたことが原因である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
少額であるため書籍購入に充てることを検討している.
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Research Products
(14 results)