2015 Fiscal Year Research-status Report
水文学的アプローチによる流域スケールの河川健全度推定モデルの構築
Project/Area Number |
26820196
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
糠澤 桂 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (20725642)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 河川健全度 / 分布型水文モデル / 科平均スコア法 / B-IBI / 主成分分析 / 生息場適性モデル / 分散分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度においては26年度までに名取川流域にて構築・検証されている水生昆虫群集の生息場適性指数(HSI)モデルと複数の河川健全度評価指標を用いて,流域規模で河川健全度を評価することを目的とした.HSIモデルは分布型水文モデルから計算された水深,流速,水温や,土地被覆や勾配等のGISデータを説明因子として構築された内,実際の観測結果との整合性が高い32分類群のモデルを採用した.健全度指標として科平均スコア法(ASPT),EPT(カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目に属する分類群の合計),B-IBI,Shannon-Weiner多様度指数,水生昆虫群集のHSIから合成した主成分得点を使用した. B-IBIはテネシー川流域にて開発された複数指標から成る健全度指標である.B-IBIを構成する13指標のうち4指標を対象流域の生物相に合わせて除外して用いた. HSIを用いることで,河川健全度を流域規模で図示する枠組みを構築出来た.全体の傾向としては中流~上流域で健全度は高いが,ASPTは下流の広瀬川と名取川の合流地点付近で局所的に数値が高下する特徴があり他の健全度指標と異なる傾向を示した.B-IBIとEPTは非常に高い相関を示した(R=0.9, P<0.01).これは,EPTのようにシンプルな評価指標で,B-IBIのように高度な指標を代用できる可能性を示唆する結果である. 一元配置分散分析の結果,いずれの健全度指標においても土地利用間(水田,森林,市街地など)において有意な差異があることが示された(P<0.01).既往研究では健全性の空間パターンに最も寄与する要因は栄養塩負荷だと結論付けている.一方,本研究では健全度指標は栄養塩濃度と相関が無い.これは,対象とする領域間で土地利用形態や水質の汚染レベルが異なる場合,健全度指標の空間パターンにも差異が生じる事実を示唆する.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りの進展具合であると言える.その理由として,27年度においてはHSIモデルの精緻化を課題としていたが,その工程は26年度中に終了していたため,河川健全度指標の検討,計算に着手できたからである.健全度指標は研究計画調書においてはICI(Invertebrate Community Index)などを適用することも検討していたが,集水面積により健全度得点が変動する本手法は対象流域での最適化に難があり,適用を断念した.しかし,健全度の検証はまだ課題が残るものの各健全度指標の特性や指標間の差異についての考察は十分行えたと考える.以上より,本年度における進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している」とした.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度において水生昆虫群集のHSIモデルから健全度指標を計算し,地図化することが出来た.28年度においては,この健全度指標の検証に着手する.健全度指標はそれが何を表現するか明確にしたうえで検証されるべきとされる(Boulton, 1999).従来の河川健全度は水質汚濁の指標として用いられる側面があった.このため,本研究課題では,平成27年度において観測した水質指標(SS,BOD,無機態窒素,アンモニウム態窒素,リン酸態リン)との相関を調べた.一方28年度においては,まずそれぞれの指標における観測値から計算される健全度指標との相関の有無を調べる.他にも,水文学的な健全性,すなわち分布型水文モデルを用いて計算される水文改変指標(Indicators of Hydrologic Alteration(IHA))との相関を調べる予定である.まず,人為かく乱の無視出来る自然河川を10か所選定し,その地点において32項目の水文改変指標を算定して健全河川の過去20年間における極端な流況頻度(RnA)を定義する.次に,推定された健全度および対応する30か所のRnAを比較し,自然状況との一致度を評価することで生物学的な健全度と水文学的な健全度との関係性を評価する.
|
Causes of Carryover |
本研究課題は平成27年度において調査費用と研究打合せ費用を計上していた.これは生息場適性モデルの構築がうまくいかない場合の対策であったたが,上述の通りモデル構築は滞りなく行われている.したがって,これらの費用に充てる必要が無かったため研究費に余りが生じて次年度使用額が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
水文学的な健全度の定義について水文学の専門家である風間と研究打合せを必要とする.申請者は平成27年度まで東北大学に所属していたが28年度から宮崎大学へと異動している.このため,仙台市への研究打合せのための旅費に昨年度の余剰分を充てる予定である.
|
Research Products
(16 results)