2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26820214
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
藤見 俊夫 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (40423024)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 耐震補強 / 曖昧性 / モラルハザード / 保証書 / 行動経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,耐震改修を促進するナッジ政策として耐震改修の保証書制度を検討する.工学的な観点からは,耐震改修した家屋が地震により倒壊する確率は非常に小さいにも関わらず,家計はそうした小さい確率を過大に評価するバイアスを有する.そこで,「耐震改修を行ったにもかかわらず地震によって家屋が倒壊した場合には無料で建て直す」という保証書を提供することで,それらの過度な不安を解消するという政策を提案している.保証書の費用は耐震修業者が保証書を提供することが望ましいが,家屋の耐震改修の倒壊リスクは地震という稀な事象,地形や地盤などの固有の条件に大きく左右されるため,非常に曖昧にしかリスクを推定できない.そうした家屋倒壊リスクの曖昧性を嫌って,耐震改修業者は保証書の提供を拒む場合が多いと想定される.一方,行政が保証書の費用を全額負担すると,モラルハザードの問題が生じる.耐震改修業者にとっては,改修工事後に家屋損壊が生じたとしても,行政が再建費用を全額負担してくれるため,手抜き工事を行うインセンティブが生じてしまう.そのため,保証書の費用を行政と耐震改修業者とで適切に分担することで,業者の手抜き工事を抑制しつつ,保証書の提供が可能となるような制度設計を行う必要がある. 昨年度まではリスク下の状況,つまり地震発生リスクや耐震改修後の家屋倒壊リスクに曖昧性が無い状況において,どのような条件で耐震補強の保証制度が成立するかを検証した.今年度は曖昧性下の状況,つまり地震発生後のリスクや耐震改修後の家屋倒壊リスクに曖昧性がある状況において,どのような条件で耐震補強の保証制度が成立するかを検証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,耐震改修の保証書制度の成立要件を,地震発生リスクや耐震改修後の家屋倒壊リスクに曖昧性がある状況において検討した.曖昧性態度を個人の意思決定に組み込むため,は曖昧性下の期待効用モデルとしてKlibanoff, Marinacci, and Mukerji(2005)の提案した期待効用モデル(以下,KMM期待効用モデル)を用いる.KMM期待効用モデルは曖昧性のある二つのリスクに直面したときにどちらのリスクを好むかを評価するモデルである.曖昧性のあるリスクは,2次関数分布を持つ確率分布として定式化される.このKMM期待効用モデルに基づいて,家屋倒壊リスクに曖昧性がある場合の保証費分担モデルを定式化した.そこで,行政は業者の手抜き工事というモラルハザードを抑制するための条件である誘因制約(IC : incentive compatibility)と業者が耐震改修サービスの提供を維持するという個人合理性条件(IR : individual rationality condition)を満たした上で,行政の負担するコストが最小値を取るように再建費分担率cの値を決定した.今年度は,KMMモデルの構造を簡潔にするため,リスク回避度が0である線形効用関数で特定化した.このもと,地震発生確率とそれによる家屋損壊確率の曖昧性を考慮し,効用関数が線形である場合にベースケースから再建費用,地震発生確率,努力コストを変化させることで,耐震改修の保証書制度の成立要件を検証した.その結果,業者の効用関数が線形でも,曖昧性がある場合にはリスク下と比べて,努力コストと初期資産の成立範囲が狭まっており,最適な再建分担率の範囲は0.77~1に広がっていることが明らかになった.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究では,KMM期待効用モデルの特定化として効用関数を線形関数とした分析までしか行えていない.線形関数はリスク回避度0を含意している.そのため,曖昧性は回避するがリスクは回避しないという非現実的な選好の個人の意思決定をモデル化することになり,そうした意思決定モデルに基づく耐震改修の保証書制度の成立要件に関する検証結果が現実的な意味を持ちうるかに疑問が残る.そのため,来年度においては,KMM期待効用モデルの特定化として効用関数をリスク回避型に特定化して,その意思決定モデルの下で耐震改修の保証書制度の成立要件について検証する.また,リスク回避型効用関数を用いることができれば,リスク回避性と曖昧性回避性のどちらが耐震改修の保証書制度の成立可否により大きな影響を及ぼするかについても検討ができる. また,来年度の課題としてKMM期待効用モデルの曖昧性回避度の値について実証的に推定する必要がある.リスク回避度については,これまで数多くの実証研究があり,相対リスク回避度は1から4程度であることが示されている.一方で,曖昧性回避度について実証研究は存在せず,その値がどの程度であるのかについての知見が存在しない.耐震改修の保証書制度の現実世界での適用可能性を検証するには,曖昧性回避度につても現実的に妥当な範囲を設定する必要がある.そのため来年度は,KMM期待効用モデルの曖昧性回避度をアンケート調査や選択実験を行うことで推定する.
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Research Products
(6 results)