2014 Fiscal Year Research-status Report
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26820259
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲上 誠 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究員 (40597803)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 空間知覚 / 開放感 / アフォーダンス / 日常環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、当初の計画通りに実空間実験(実験1)および空間計測を行った。始めに、大学キャンパス内の屋外空間において、空間構成が多様に異なる42カ所を選定した。被験者には、それぞれの場所において、環境から感じる開放感を評定してもらった。開放感を「周囲に感じる空間の大きさ」と定義した上で、難しく考えず直感的に評定するように教示を与えた。30名の学生および研究員に参加してもらい、一度に1~4名の被験者で実験を行った。さらに、実験に用いた各場所において、3Dレーザースキャナーによる空間計測を実施した。視線の高さから周囲の環境までの距離をレーザー計測し、空間構成を点群データとして記録した。この計測作業については、専門の測量業者に依頼した。また、同じ地点から写真撮影を行い、周囲の環境を複数の画像として記録した。それらの画像は、次年度のバーチャルリアリティ実験(実験2)で使用する予定である。 評定実験および空間計測で得られたデータの分析では、開放感と物理的空間との対応関係をモデル化することにより、知覚空間の構造について調べた。まずは、James Gibsonによる生態学的知覚論からヒントを得て、行動の可能性(アフォーダンス)の観点から空間構成を定量化した。具体的には、周囲の環境を、歩行可能な面(path)と不可能な面(barrier)に分類し、それぞれが占める割合(立体角)を算出した。それらを説明変数として回帰分析を行った結果、開放感を説明する有効なモデルが得られた。この結果は、我々が日常的に行っている知覚を記述しているという点において、空間知覚という研究領域に新たな知見を与えると期待される。なお、実験1の最終的な目的は、知覚空間の構造(異方性や非等質性という歪み)を明らかにすることであった。その点に関しては、まだ分析を続けている状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のように、平成26年度に計画していた分析は、まだ最終的な目標には達していない。しかし、次年度に予定しているバーチャルリアリティ実験(VR実験、実験2)に関しては、予定より早く準備を開始している。既に、実験場所で撮影した写真の加工を完了し、全ての環境のパノラマ画像を作成してある。また現在は、実験に用いるVR装置を作製するため、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などの機器の選定を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、実験1のデータの分析を進めることと並行して、当初の計画の通り、実験2を実施する予定である。さらに、実験1と実験2で得られたデータを合わせて分析することにより、環境デザインの支援ツールの開発を目指したいと考えている。現段階の課題としては、購入を予定していたHMDでは十分な没入感が得られないという点が挙げられる。この問題については、より視野角の広いHMDに変更したり、操作のインターフェースを工夫したりするなど、適切な対応策を検討している。
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Causes of Carryover |
平成26年度には、3D点群処理ソフトウェアを購入する計画であったが、予定を変更し、処理プログラムを自作してデータ分析を行った。一方で、以前の関連研究で得られたデータを分析し、国際学会に参加して成果を報告した。この発表により、知覚空間の構造を調べるという本研究の目的と位置づけを、より明確にすることができた。そのような計画変更の結果として、約9万円を次年度使用額として繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した分の助成金は、研究成果の発表のための経費に充てる予定である。当初の計画にあった国際学会の発表に加え、国内の学会においても成果を発表する予定であり、既に申し込みを済ませている。それ以外の助成金については、当初の計画の通り、VR装置の作製(ノートPCやHMDの購入)、実験2の実施(被験者謝金の支払い)、設計支援ツールの開発(ソフトウェアの購入)、研究成果の発表(国際学会への参加、論文の作成)のために使用する予定である。
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