2014 Fiscal Year Research-status Report
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26820270
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山岸 吉弘 日本大学, 工学部, 助教 (40454201)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 建築生産 / 大工棟梁 / 大工仲間 / 江戸時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、相模国大山を拠点として活躍した大工棟梁「明王太郎」の分析を通じて、江戸時代の建築生産の内容や特質を解明することである。本年度は、当該領域の学術的な課題を抽出し、研究の方向性を改めて定めた上で、最終的な研究成果の内容を思い描きつつ、研究を実施した。その結果、明王太郎という個別具体的な事例だけを扱うのではなく、比較対象を求めて視野を広げる必要のあることが明確となり、甲斐国の下山大工や郡内大工仲間に注目した。また、上記のような作業を行った動機の一つに、下山大工に関連する新資料を披見する機会を得たことも挙げられる。 そこで、山梨県内の個人宅に所蔵されている史料を読解し、内容を把握することから開始した。特に、享保年間に行われた北口本宮冨士浅間神社の境内整備事業に焦点を絞り、社殿等の普請に関与した大工を特定した。それら大工の社会的な位置付けや相互間形成を分析し、仲間を主体として活動する大工と、神社を拠り所として活動する大工と、二つの異なる性質を見出すことができた。 大工の活動について、市場が拡大傾向にあるときは自由な営業を求めるが、縮小傾向にあるときは職場の独占を欲する。いかに仕事を得るかという問題が、大工の有り様を大きく規定することになる。仲間を形成する大工は自ら活動を制限することで、神社に帰属する大工は特定の場所にとどまることで、安定的な仕事量の確保を目指した。一方で、相模国の明王太郎は、自らの名前を売ることで活動の範囲を広げることに成功した。甲斐国の大工と比較して、全く異なる存在様態であることが想定されるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、相模国大山を拠点として活躍した大工棟梁「明王太郎」の分析を通じて、江戸時代の建築生産の内容や特質を解明することである。明王太郎を一つの指標とすることで、歴史的な事象を相対化することを目指している。一方で、明王太郎の特殊性を考慮する必要があり、比較対象として甲斐国の大工を位置付けることができた。下山大工や郡内大工仲間との共通点や相違点を明確にすることで、より充実した成果を得ることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、①建築生産史的な課題とそれを分析することができる②相模国明王太郎の活動及び③甲斐国下山大工・郡内大工仲間の活動の、①~③の三つの観点からそれぞれをまとめ、相互を比較し関連付けることで、江戸時代の大工に対する新たな見方を提示することを行う。具体的には、施主との結びつきや職人や物資の調達方法などの観点から分析を実施する。
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