2014 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の賀茂別雷神社遷宮に及ぼした公武権力の影響と修理の実態に関する研究
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26820277
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
小出 祐子 京都精華大学, デザイン学部, 講師 (50593951)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 賀茂別雷神社 / 上賀茂神社 / 遷宮 / 造替 / 賀茂別雷神社文書 / 江戸時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、江戸時代の賀茂別雷神社において挙行された8度の遷宮を通して、その円滑な実現のために当社が行った様々な企てを検証し、公武と結びついた由緒ある神社のイメージが形成されていく過程をあきらかにする点にある。2014年度には、社殿の破損を遷宮の理由とする願書の妥当性について、当社の修理記録から考察を進めた。社殿の修復という行為が、当社にとって公儀から遷宮を速やかに認可されるための理由付けとして利用されたという可能性を探るべく、寛文2年(1662)5月に起こった地震からの復興に関わる修理関係文書(寛文3年)をもとに、その修復内容の検証を行った。当社の本宮及び権殿以下、摂社本殿や拝殿、その他社頭の付属施設や鳥居、橋、灯籠などを含む130あまりの施設について、修復見積りの内訳などからそれぞれ新造(再建)、修復を判断した。その結果、施設全体の41%が新造、54%が修復、修復無し及び不明が5%となり、ほとんどの施設が新造あるいは修復されたことがわかった。また全体では修復された施設が新造を上回り過半を占めるものの、建物の種別にみると、新造と修復の対象が明確に分けられることが判明した。当社の本宮本殿及び権殿と摂社、末社の各本殿建築のみに対象をしぼると、全39棟のうち、38棟までが新造であったと考えられる。このようにほぼすべてが新造された施設には橋と鳥居があり、一方でそれらを除く付属施設76件については、その96%が修復(屋根替や根継ぎ)に留められていた。寛文の地震が当社にもたらした具体的な被害は不詳だが、本殿、鳥居、橋については一律に新造し、それ以外は修復にあたるという建築種別に偏った修理の方針からは、当修理が地震被害の実質的補修というよりも、特定の建物の造替を企図するものであった可能性が指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように、2014年度には江戸時代の寛文期を中心とした賀茂別雷神社の社殿修復に関する事例の検証を行った。これにより、地震被災からの社殿復興を前面に出しつつも、実情は本殿建築などの一律的な造替が社によって企図された可能性を指摘することができた。一方で、寛永度から文久度に至る8度の遷宮に関する公武の動向、神社とのやりとりについての検証は十分に進んでいない。公武権力と当社との結びつきが遷宮に及ぼした影響の考察を行うために、社記録から関連記事の拾い出しを集中的に進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度をふまえ、今後の研究の推進方策として以下の点が挙げられる。まず1点目に、本年度に行った作業の継続及び展開として、修理仕様帳から江戸時代の各遷宮において行われた社殿の修復や新造に関するデータベースを構築し、遷宮前の破損状態をみきわめたうえで、遷宮理由として掲げられた大破の妥当性を検証する。また2点目として、遷宮に関する公武の動向やそれに対する神社側の対応を社家日記類から抽出すると共に、江戸時代に当社で再興された様々な年中行事や神事に関連する史料の新たな渉猟につとめ、公武権力の関与と伝統や古格の強調が遷宮にもたらした影響を考察する。
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Causes of Carryover |
遷宮に関わる社記録記事の抽出作業、データベースの構築に遅れが生じ、その作業関連の費用執行が次年度に持ち越しとなった。また、本年度に予定していた史料渉猟の日程を確保できなかったため、関連する国内旅費、資料複写費の年度内執行を見送ることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が生じた理由は、研究内容の大幅な修正あるいは変更に基づくものではなく、今年度予定していた作業の遅れによるものである。よって今年度の計上費目を次年度に繰り越し、集中的に作業にあたる。また、今年度中に研究機関の異動があり、研究環境等に変化があったため、研究の遂行に必要となる設備、資料費の支出を予定している。
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