2015 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の賀茂別雷神社遷宮に及ぼした公武権力の影響と修理の実態に関する研究
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26820277
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
小出 祐子 京都精華大学, デザイン学部, 講師 (50593951)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 賀茂別雷神社 / 上賀茂神社 / 江戸時代 / 遷宮 / 寛永度造営 / 造営奉行 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸時代の賀茂別雷神社(上賀茂社)において、古儀の復興と共に伝統や由緒を強く打ち出した神社のイメージが形成されていく過程を、公武権力の影響のもとで展開した当社の遷宮(造営)を通して考察するものである。2015年度には、江戸時代に行われた8度の造営のうち、最初かつ最大規模で行われた寛永度造営を取り上げ、それに関わる幕府の動向を社記録から検証した。寛永度造営は、寛永4年(1627)1月に公儀作事として行う旨の通知を受けて以降、同10年に旧殿などが撤却されるまで、5年以上の歳月をかけて遂行された。長期にわたる造営の各段階での公儀の関与をあきらかにするため、造営日記から上賀茂及び境外摂社である貴布祢社の90棟あまりにのぼる諸社殿、舎屋等の造営手順(工程)を整理した。上賀茂の摂社や末社は本宮の正遷宮までに仮遷宮を終え新殿が立柱されたが、それに続く上棟及び正遷宮の儀式は本宮の正遷宮を待って行われたため、仮遷宮から新殿の上棟までに3年ほどの空白期間ができる例も見受けられた。造営の長期化はこうした工程によるものであり、実質の造営のピークは寛永5年3月から本宮の正遷宮を迎える同年12月頃という結論に至った。そして造営奉行の行動を社記録から抽出し、造営の工程に重ねた結果、造営活動が集中する寛永5年3月から同6年閏2月までは現地見廻りの回数が増えることがわかった。造営奉行は現地視察を通して不備箇所の修正を指示し、新造された社殿の現地検分を所司代と共に行っている。また上賀茂社に対しては、指図類や再建に際しての諸変更の伺いを提出させ、造営の進捗報告を適宜行わせると共に、遷宮に際し必要となる御供料や祝儀費、諸道具費、装束費などを計上させるなど、造営事業において社と幕府をつなぐ役割を果たしていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度当初の計画に基づき、公武の動向が当社の造営事業に及ぼした影響の考察に着手した。実績の概要で述べたように、2015年度は惣造営として江戸時代最初に行われた寛永度造営の工程をまとめ、公儀作事における造営奉行の具体的な活動と役割をあきらかにした。一方で、幕府の倹約政策のもとで行われていく延宝度以降の造営では、概ね順調に遂行された寛永度造営とは公儀の造営への関わりかたに変化がみえると想定されるものの、その検証は進んでいない。引き続き、江戸時代中後期の造営における公武の関与をあきらかにするため、社記録から関連記事の拾い出しを行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を推進させるにあたり、公武の動向が寛永度より後の造営と神社のありかたにどのような影響をもたらしたのかを考察することが課題となる。惣造営として90棟を超える諸建築が新造された寛永度とは異なり、延宝度以降の造営では幕府の緊縮財政策のもとで、多くの建築は修復にとどめられた。そこで、当社に所蔵される修理仕様帳などから社殿の修復や新造に関する記録をデータベース化して各度の造営工程を整理し、寛永度との比較をもって公武の関与と社の対応を検証する。あわせて、江戸時代に当社で再興された様々な年中行事や神事に関連する新史料の渉猟につとめ、これらの実現のために上賀茂社がとった伝統や古格を強調して公武と連携する動きと、造営活動との関連について考察する。
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Causes of Carryover |
延宝度以降の造営に関わる社記録の抽出作業に遅れが生じ、その作業関連の費用執行が次年度に持ち越しとなった。また、本年度に予定していた史料渉猟の日程を確保できなかったため、関連する国内旅費、資料複写費の年度内執行を見送ることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が生じた理由は、研究内容の大幅な修正あるいは変更に基づくものではなく、今年度予定していた作業の遅れによるものである。よって今年度の計上費目を次年度に繰り越し、集中的に作業に当たる。
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