2015 Fiscal Year Research-status Report
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26820278
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Research Institution | Kure National College of Technology |
Principal Investigator |
岩城 考信 呉工業高等専門学校, 建築学分野, 准教授 (50647063)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 高床式住宅 / チャオプラヤー川 / アユッタヤー / モンキーチーク / 減災 / 高床式牛小屋 / 遊水地 / 自然堤防 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年にタイで発生した大洪水は、チャオプラヤー川流域を中心に大きな被害を与えた。その後行政は、チャオプラヤー川の上流にモンキーチーク(Monkey Cheek)という遊水地をさらに建設し貯水力を強化し、中流から下流には、河川に沿って広域に直立堤防を建設し次なる大洪水に備えている。これらは1960年代以降から進む、洪水と戦う「防災システム」の強化である。しかし、そこには住民が独自に実践する、居住地としての微高地の選択、敷地の盛土、高床式建物(住宅や牛小屋)の建設といった、洪水と共存する「減災システム」は十分に組み込まれいない。その背景には、行政や研究者に市井の人々の実践する「減災システム」が知られていないことがある。本研究では、タイ・バンコクを洪水から護るために行われてきた、行政による防災システムと民間による減災システムの連関とその変遷を明らかにしてきた。 平成27年度は、バンコクを護るためにアユッタヤー県に20年ほど前から建設されているモンキー・チークの内側と外側にある集落の高床式建物(住宅と牛小屋)に関する資料収集と、建物を測量する実測調査及び居住者へのインタビュー調査を行うため、2回タイに赴いた。平成27年12月24日~平成28年1月1日には、タイの共同研究者と共に調査対象者へ説明を行うと共に、チュラロンコーン大学の図書館などを中心に資料収集を行った。平成28年2月27日~3月8日には、2名の学生調査協力者と共に、モンキーチーク内外の集落において高床式住宅7棟と高床式牛小屋4棟の実測調査を行った。この調査から既存の地盤高を配慮した居住地の選定、盛土の高さと洪水時の水位に応じた床高の決定過程、また洪水発生時の建物の改造手法や物品の水没退避方法といった、市井の人々が実践する減災システムを、図面をもとに分析することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は、9月初頭に、学生調査補助者と共に、アユッタヤー県のモンキーチークに選定されているバーンバーン地区において、高床式建物の実測及びインタビュー調査を行う予定であった。しかし、8月17日にバンコクで爆弾テロ事件が派生したため、安全を考慮し、実測調査を平成28年3月へと延期した。こうして、実測調査は無事に実施したものの、平成27年度内に行う予定であった、実測図面のCADデータ化が年度内に完了していない状況にある。そういった意味で、本年度の進歩状況は、やや遅れているといえる。 ただし、平成28年2月27日~3月8日現地調査では、モンキーチークの内外において、洪水時の水没環境の異なる、水辺の自然堤防の微高地にある集落と水辺から離れた低地にある集落の、高床式住宅7棟、高床式牛小屋4棟を対象に実測及び聞取り調査を行った。こうして、モンキーチーク外の微高地の高床式住宅では、洪水に備えて十分な床高を設定しており、2011年の大洪水時に床上浸水はなく、水捌けも良かったことが明らかとなった。一方、モンキーチーク内の低地の集落では、通常の洪水に耐えられるように床高は設定されていたものの、2011年は地区が遊水池として利用されたため、床上に浸水し、数ヶ月に及ぶ湛水被害を受けることとなった。しかし、そこでは床上浸水はしたものの、水位に応じて、床をさらに高く揚げるなど独自の住宅改造を行い、家財への被害が発生しないようにする減災の実践が行われていたことが明らかとなった。 このような多様な減災システムの実践手法に関する研究はほとんどなく、今後は成果を論文としてまとめる予定である。また、住宅のみならず、牛小屋ももともとは高床式建物であったことが明らかとなった。高床式牛小屋における減災システムの実践とその変遷は、今後の研究課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成27年度の実測調査によって収集した高床式住宅や高床式牛小屋の図面をCADデータ化し、床高といった洪水時の水位と密接に結びつく建物のスケールの詳細を明らかにしていく。また、人々の洪水時の対応の実践、すわなち住宅の改造について、手法とその変遷をより詳細に図化していく。こうして、市井の人々が、洪水に対して実践する減災システムの実態を解明する。また、図化や分析の過程において、すでに調査不十分な箇所が散見され、追加調査の必要がある建物がある。また、分析の精度を高めるためにも、事例数を増やす必要もある。そこで、平成28年度も9月に、平成27年度同様にアユッタヤー県のバンバーン地区においてに実測及び聞取り調査を数名の学生研究補助者と共に行う予定である。 そして、これまで得た知見や情報をもとに、行政によるダムや広域な直立堤防の建設といった大規模な防災システムと市井の人々が実践する小規模な減災システムの連関とその変遷について分析を行い、論文や報告書の作成を行う。
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Causes of Carryover |
当初は、平成27年9月に現地で実測調査を行い、年度内に学生の研究補助者に謝金を支払い、実測図面のCADデータ化を行う予定であった。しかし、8月半にバンコクでテロが発生したため、安全を考慮して実測調査を平成28年3月に変更した。そのため、年度内での実測図面のCADデータ化に至らず、学生の研究補助者に謝金を支払うことがなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年3月に行った、実測図面のCADデータ化を行う学生研究補助者への謝金の支払いに充当。
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