2015 Fiscal Year Research-status Report
低温水和条件での直接合成による高プロトン伝導性酸化物の創製
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26820290
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三好 正悟 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30398094)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | セラミックス / ペロブスカイト / プロトン伝導 / 低温合成 / 燃料電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,酸化物に溶解するプロトン・水は低温で安定化するという熱力学的原理に基づき,低温合成法を利用して高濃度にプロトンを含有する高プロトン伝導性材料を創製することを目的としている. 平成27年度は,ペロブスカイト型酸化物系プロトン伝導体のマトリックスとドーパントの最適な組み合わせを見出すための検討を行った.マトリックスをBaZrO3,ドーパントをY3+とした場合,Y3+濃度が0.1程度まではY3+濃度の上昇に伴いプロトン移動度が上昇するとともに活性化エネルギーが僅かに低下する傾向が観測された.一方,Y3+濃度が0.2に達すると移動度の上昇は飽和し,活性化エネルギーが上昇する. BaZrO3のZrサイトに遷移元素をドープした際のホール伝導度とドーパント濃度の関係を参照すると,イオン半径の小さいFeをドープした場合はドーパント濃度0.25程度でホール伝導度が急激に上昇する明瞭なパーコレーション伝導を示し,これはFe-O6八面体にホールが強く束縛されているためと考えられるが,イオン半径の大きいPrをドープした場合は非常に低いドーパント濃度(凡そ0.03)でパーコレーションが成立することが示唆されており,これはホールがPrを中心とした第二近接酸素サイトまで拡がって分布しているためと考えられる.すなわち,ドーパントのイオン半径により定まる局所構造がホールのドーパントへの局在の程度とパーコレーション挙動を支配する因子であり,イオン半径の大きいドーパントにより導入されるホールは比較的広い範囲に分布する.この知見を応用すると,Zr4+よりもイオン半径の大きいY3+をドープすることにより導入されるプロトンはドーパント第二近接酸素サイトまでプロトンの存在範囲が広がっており,観測されたプロトン移動度・活性化エネルギーのドープ量依存性は比較的大きなプロトン伝導性シェルのパーコレーションに従うものであることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は,従来ほとんど認識されることが無かったアクセプタードーパントとプロトンの相互作用に由来するプロトン伝導度の非線形なドープ量依存性(パーコレーション伝導)を明らかにし,本年度はパーコレーション伝導を支配するプロトン伝導性シェルの大きさがドーパントのイオン半径により決定されることを示した.これらの知見は,アクセプタードーパントを高濃度化することによるプロトン濃度の上昇とプロトン伝導度の向上を図る上で非常に重要である.すなわち,これまでに検討したBaZrO3にY3+をドープした系ではプロトンがドーパント第二近接酸素サイトまで広く分布しているためにパーコレーションの効果が顕著に現れず,さらに第一近接酸素サイトがプロトンの不安定サイトであるとするとドーパントを高濃度化することは移動度の低下をもたらしプロトン伝導性に対して不利である可能性があることが分かった.従って,BaZrO3マトリックスであれば,プロトン溶解能は比較的良好であるが移動度が低いことが知られているSc3+やIn3+をドープした系は,Zr4+よりドーパントイオン半径が小さいことによりプロトンがドーパント第一近接に局在しているために移動度が低いと考えられ,ドーパントを高濃度化することによりプロトン濃度の向上のみならず,プロトン伝導性シェルのパーコレーションによる見かけの移動度向上も期待される.このように,これまでの研究成果は低温合成に基づく高ドーパント濃度・高プロトン濃度化が効果的である系を識別するための重要な知見であり,本研究の目的である高プロトン伝導性酸化物の新しい設計指針の構築に大きく寄与するものである.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた知見から,高ドーパント濃度化・高プロトン濃度化に伴いプロトン移動度の向上も期待されるBaZrO3にSc3+やIn3+をドープした系に着目し,ゾル-ゲル法などの低温合成により得られた酸化物について高プロトン濃度化の検証とプロトン機能の評価を行う. 合成した酸化物ナノ粉末を室温において超高圧成形し,比較的低温でアニールすることにより高濃度プロトン含有試料を作製する.溶解したプロトン(水)量を評価するとともにサンプルの長距離・局所構造との対応を調べ,高濃度に導入したプロトンの安定性を検証する.また,赤外分光法などによりプロトンの化学環境や拡散性に関する知見を得る.高温電気化学測定によるプロトン伝導度の評価やプロトン輸率の推定を行い,高プロトン伝導性を検証する.以上により,高濃度プロトン溶解に基づく高プロトン伝導性酸化物の実現を目指す.
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Causes of Carryover |
平成27年度においては,本研究の目的であるプロトン高濃度化において重要なアクセプタードーパントを高濃度化した際のプロトン移動度の変化について検討するため,BaZrO3系酸化物におけるプロトン伝導特性の詳細な調査を行った.このため,主要な合成法として用いるゾルゲル法の原料である高価な金属アルコキシドの使用量が当初予定よりも少なかったことが次年度使用額が生じた理由である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ゾルゲル法による高アクセプター濃度・高プロトン濃度酸化物の低温合成を実施するため,原料として用いる金属アルコキシド等の試薬類や,伝導度評価などに用いる貴金属製品,雰囲気調整用ガス,セラミクス製品などの消耗品類の購入に充てる.旅費については国内外における学会発表を行うために使用する計画である.
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Research Products
(2 results)