2014 Fiscal Year Research-status Report
水を含んだ結晶構造を有する蛍光体の構造解析と発光メカニズムの解明
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26820292
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Research Institution | SALESIAN POLYTECHNIC |
Principal Investigator |
黒木 雄一郎 サレジオ工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90324003)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヒドロニウムアルナイト / 銅イオン / 蛍光体 / 水素結合 / リートベルト法 / ラマン散乱 / 局所的構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルナイト(KAl3(SO4)2(OH)6)は、天然の鉱物であり、世界中で広く産出されている。申請者は、KをH3Oに置き換えたヒドロニウムアルナイトに銅を添加することにより、この材料が青色の発光を示す事を見出した。この物質は、母体結晶中にヒドロニウムイオン(H3O+)や水酸基(OH)の形で結晶水を多量に含む点で、他の蛍光体には無い特徴を有している。本材料において、結晶水およびそれによる水素結合が青色発光に重要な役割を担うことが予想される。そこで本研究では、銅添加ヒドロニウムアルナイトにおける平均的長距離構造および局所的短距離構造の解析と発光メカニズムの解明を目的としている。平成26年度は、以下の二点について推進した。 ①結晶構造の精密化:発光種である銅イオンとそれを中心とする八面体の配位子場、結晶場および水素結合の形態を明らかにする。 ②配位子結合および水素結合と発光の相関の解明:Cu+を中心とする八面体の歪は、配位子結合および水素結合の距離と直接関係すると考えられる。①の結晶構造の精密化から得られた情報を元に、水素結合の形態と発光特性との相関を調査する。 XRDにより得られたデータを元に、リートベルト法およびMEM/MPF法を取り入れ結晶構造解析を行った。以上の結果から、アルナイト化合物における酸素八面体の歪を評価することに成功した。AサイトにおけるH3Oイオンの存在により、Bサイト(アルミニウム、および銅イオン)を中心とする八面体が歪むことで、本来禁制であるCu+の4s-3d遷移が一部許容遷移となり、青紫色の発光が発現したものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で得られている青紫色の発光は、母体結晶中に含まれる結晶水((H3O)+あるいはOH-)とCu+イオンの3d10⇔3d94s1遷移が関係している事を報告してきた。イオン半径の観点から、Cu+イオンは、ヒドロニウムアルナイトにおけるAl3+を中心とする酸素八面体サイト(Bサイト)に入ると考えられる。そこで、アルナイト型化合物において、酸素12配位のAサイトにH3O+を含むもの(以下H-アルナイト)と、Kを含むもの(K-アルナイト)を合成し、それぞれの酸素八面体について構造解析を行い、発光特性との関係を検討した。まず発光特性を調査したところ、カリウムの仕込み組成xの増加に伴い青紫色の発光強度が減少することを明らかにした。Galeらが行った第一原理計算により、AサイトにH3Oイオンがある場合には、オフセンター歪みが生じることが示されていた。しかし、本研究の結果では、オフセンター歪は見られなかった。一方、八面体の4つのO(3)が作る面の法線に対するO(2)-Al-O(2)軸の傾きは、H-アルナイトの方が大きかった。Cu+の励起準位の一重項から三重項への緩和(1T2g→3Eg,1Eg→3Eg)は、通常であればスピン禁制であるが、上述の酸素八面体における軸の傾きにより一部許容となり、420 nmの発光を示したものと考察した。上記の結果は、「発光メカニズムの解明」という研究目的に対して70%程度の達成度であり、おおむね順調に進展している。今後、八面体の歪の起源についてラマン散乱分光による評価を行うことで、研究目的を達成できるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
【ラマン散乱分光による振動解析】 配位子や結晶水など、局所的な構造解析には、ラマン散乱分光が有効である。XRDによるデータを元に、リートベルト-MEM/MPF解析を行った結果、酸素八面体における軸の傾きが青色発光の発現に影響しており、さらに結晶中の水素結合が寄与していることも明らかにしつつある。そこで、ラマン散乱分光測定を行い、水素結合を定量的に評価するとともに、リートベルト-MEM/MPF解析の結果と合わせて八面体の軸の傾きへの水素結合の寄与を調査する。 【低温PLによる配位子場強度の評価】これまで、Cu+を中心とする八面体の直接的な証拠は得られていない。八面体の配位子場によりCu+のエネルギー準位が分裂したならば、低温でのPL/PLE測定により分裂したエネルギー準位のピークが室温と比較して明瞭になることが予想される。また、その分裂の大きさから、配位子場強度を見積もることが可能となる。 【電子状態計算による発光特性の評価】XRDとリートベルト解析によって精密化された原子位置を元に、試料の電子状態を評価する。特に、結晶水の含有量とCuO6八面体の歪およびCu+の電子構造の変化を明らかにし、これまでに得られている発光メカニズムについて理論的・定量的裏付けを検討する。また、計算により、高圧下での発光挙動を予測する。例えば、Cu+を中心とする八面体が収縮すれば、Cu+のd電子と酸素および水酸基とのクーロン反発のためdx2-y2およびdz2軌道から成る励起準位のエネルギーが高くなる。このため、発光波長は短波長側にシフトすると同時に非輻射遷移確率の低下により発光強度が増大する事が予想される。XRD、ラマン、発光分析の結果から、試料の電子状態を詳細に解析し、配位座標モデルなど理論との整合性を検討する。
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Causes of Carryover |
研究計画当初購入予定であったDPSSレーザーに不具合が見られ、代替レーザーおよびラマン散乱分光システム全体を見直した。その結果、当初予定よりもかなり安価にシステムを構築することが出来たため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成27年度)は、低温PL/PLE測定系を構築する予定である。クライオスタットやキセノン光源は現有の物を流用する予定であるが、励起側を分光光源とするための小型分光器を購入する計画を立てている。
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Remarks |
6 月以降公開予定
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