2014 Fiscal Year Research-status Report
錯体水素化物の水素放出特性における結晶構造と格子振動の影響
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26820313
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 豊人 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20455851)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | エネルギー材料 / 錯体水素化物 / 結晶構造 / 格子振動 / X線回折 / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属陽イオンMn+(n :金属Mの価数)とAl-H結合の錯イオン([AlH4]-など)のイオン結合で形成される錯体水素化物(Al系錯体水素化物M-Al-H)は、高密度に水素を含有し、低い温度領域で水素を放出するため水素貯蔵材料として期待されている。しかし、この水素放出のメカニズムは、十分な理解に至っていない。 当該研究では、純良なM-Al-Hを系統的に合成し、その水素放出特性、結晶構造、格子振動(原子振動)を総合的に評価する。そして、その結果から原子間距離(M-H間距離)と格子振動(Al-H伸縮振動数)が水素放出特性(水素放出温度)に及ぼす影響を明らかにし、その水素放出メカニズムを解明する。 平成26年度は、純良なM-Al-Hを系統的に合成し、熱分析装置を用いて水素放出に伴う反応温度を評価した。また、その結晶構造を粉末X線・中性子回折から決定した。 当該研究で解明した結晶構造の結果を踏まえて、M-Al-Hの結晶構造における金属陽イオンMn+依存性を明らかにする指標を提案した。この指標は、M-Al-H以外にも適応できるため拡張性の高い指標であった。 今後の研究展開として、ラマン分光・赤外分光・中性子非弾性散乱を用いてM-Al-H中のAl-H結合に関する振動を明らかにする(格子振動)。そして、当該研究の総括として、M-Al-Hの原子間距離(M-H間距離)と格子振動(Al-H伸縮振動数)が水素放出特性(水素放出温度)に及ぼす影響を明らかにし、その水素放出メカニズムを解明する。更に、この知見を他の錯体水素化物に拡張し、水素貯蔵材料の材料開発指針をまとめる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属グループの現有装置と国内外の研究施設を利用し、平成26年度に計画したAl系錯体水素化物M-Al-Hの試料を合成し、その水素放出に伴う反応温度、結晶構造を明らかにした。これらの結果に加えて、当該研究で解明した結晶構造の結果から、関連する水素化物の結晶構造をまとめた新たな指標を提案する事ができた。この指標は、当該研究で着目しているM-Al-Hだけでなく、関連する水素化物やイオン結合性の物質にも適応できる拡張性の広い指標であり、研究の総括として掲げるM-Al-Hの水素放出メカニズムを解明する上で、非常に重要な結果になることが期待される。 一方、平成27年度に計画しているM-Al-Hの格子振動に関する研究は、平成26年度後半から既に着手している。この研究を遂行する上で、実験室レベルで可能なラマン・赤外分光実験に加え、中性子散乱を利用した実験(中性子非弾性散乱実験)は、最適な手法の一つである。この中性子非弾性散乱実験は、平成26年度後半から計画しており、平成27年5月下旬に米国オークリッジ国立研究所にあるパルス中性子施設SNSにて実験を行うことが決定している。 これらの理由のために当該研究は、おおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、平成26年度に系統的に合成したAl系錯体水素化物M-Al-HにおけるAl-Hの格子振動を各種分光法(ラマン分光法・赤外分光法・中性子非弾性散乱法)を組合せて明らかにする。 ラマン・赤外分光法は、原子の格子振動を評価する簡便な手法であるが、全ての振動を評価することは困難である。一方、中性子非弾性散乱法は、大型中性子散乱実験施設を用いる必要があるが、全ての格子振動を評価することができる。特に水素は、他の元素に比べて非常に大きな中性子散乱断面積を有しているため、水素を含有した物質の中性子非弾性散乱から得られるスペクトルの強度は、非常に強い結果となる。このため、当該研究で着目するM-Al-Hの格子振動を評価する上で中性子非弾性散乱法は、最適な手法である。 当該研究において、中性子非弾性散乱実験は、平成27年5月下旬に米国オークリッジ国立研究所にあるパルス中性子施設SNSで行う予定である。このデータ解析には、昨年度、解明した結晶構造を基に第一原理計算を行い、実験と計算を組合せて解析する。その結果から結晶構造や脱水素化反応との相関を見出す。 本研究の総括として、M-Al-Hの原子間距離(M-H間距離)と格子振動(Al-H伸縮振動数)が水素放出特性(水素放出温度)に及ぼす影響を明らかにし、その水素放出メカニズムを解明する。更に、この知見を他の錯体水素化物に拡張し、水素貯蔵材料の材料開発指針をまとめる。
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Research Products
(8 results)