2014 Fiscal Year Research-status Report
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26820375
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
高柳 大樹 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発本部, 研究員 (70513422)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 航空宇宙流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、各種分光計測手法を適用することにより、高温衝撃風洞HIESTにおける異常過熱現象の原因を明らかにし、熱流束評価の精度向上を目指すものである.研究開始当初は、不明な発光種からの多数の原子線が複雑に重なり合う発光スペクトルの解析が困難であり、発光種の同定が困難であった.しかし、分光定数データベースを幅広く参考することにより、また、同様の風洞における分光計測に関する文献調査を注意深く行うことにより、ほぼすべての原子線の同定に成功した.不純物として含まれる鉄や銅などの金属線が多数確認され、それらの発光強度が試験気体である空気の発光強度を上回っていることが明らかになった.さらに、発光種の同定結果を反映させ、スペクトル解析コードSPRADIANのアップデートを実施した.SPRADIANは大気圏突入時のカプセル近傍の輻射加熱評価のために開発されたツールであったが、本研究では、風洞気流中に含まれる金属不純物由来の輻射加熱を評価すべく、分光データの拡充を試みた.その結果、衝撃層内の温度および、各金属原子の数密度を定量的な評価が可能となり、計測点において、温度は7500K、不純物である鉄などの数密度は試験気体である酸素原子などの数密度よりも二桁低いことが明らかになった.さらに、その物理量を衝撃層内の代表値として用い、輻射加熱率を単純なtangent slabモデルで求めると、吸収率1であった場合、加熱率は22.5Mw/m2であると求められた.この値は、実験結果と比較すると2倍に過大評価されている.実際は、熱流束センサーの吸収率は、表面の酸化状態などにより0.8から0.1程度の値をとっていると考えられ、計算結果はおおよそ妥当な値を示していると考える.また、これらの結果を踏まえて、現在、不純物の含まれない高速気流生成が可能な装置として、膨張波管の安定運用を目指し、前倒しで取り組んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、気流組成評価に、マススペクトルメーターを用いた直接的な組成計測を予定していた.これは、発光スペクトル解析よりも、複雑な組成評価に適した手法ではあったが、気流に計測部を挿入することによって気流が乱されてしまう恐れがあった.しかし、発光スペクトルの計測結果を注意深く評価した結果、気流中には、不純物として金属原子が多数含まれていることが明らかになり、気流を乱すことなく非接触な計測に基づいて、気流診断を行うことが可能となった.また、輻射解析コードSPRADIANをアップデートすることで、それら不純物由来の輻射加熱率を求めることを可能とした.金属原子の励起エネルギー準位は複雑であり、非常に多くのエネルギー遷移を考慮する必要がある.分光定数のデータベースには、すべてのデータが網羅されているわけでないため、理論的に考えられるエネルギー準位の存在を推定し、その準位に関わる物理量を推定する必要がある.SPRADIANのアップデートでは、それらの作業を地道に行うことで、必要な分光定数を整備した.これにより、実際の風洞運用における熱流束計測にて、分光計測と組み合わせることで、不純物由来の輻射加熱率を予測し、試験気体のみによる空力加熱評価が可能となったと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
現在、衝撃風洞HIESTにおける異常過熱現象の原因解明および、その定量的な評価手法はおおよそ確立された.そこで、今後は、その異常過熱による熱流束を排除した条件での計測、もしくは、熱流束計測結果からの排除を試みる.前者としては、不純物が含まれないクリーンな気流生成が可能な装置として、膨張波管を用い、熱流束計測を目指す.現在、すでに運用は開始されており、ピトー圧計測、発光画像取得などは行われている.今後、より安定な運用、想定するミッションに応じた試験条件の拡充を試みながら、熱流束計測を合わせて行う.熱流束センサーとしては、衝撃風洞にて用いられてきた実績のあるものを用いるが、試験気流のコア径が衝撃風洞よりも小さいため、より小型のセンサーとして、模型内にマウントする必要がある.また、後者としては、金属種のスペクトル計算のためにアップデートされたSPRADIANを、数値流体解析と組み合わせることで、より精度向上を目指す.また、実際に通常の風洞試験において、熱流束計測を実施する模型周りの発光分光計測を組み込み、それらを組み合わせることで、純粋な試験気体からの熱流束を評価することを試みる
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Causes of Carryover |
当初の計画では、気流組成評価に、マススペクトルメーターを用いた直接的な組成計測を予定していた.しかし、発光スペクトルの計測結果を注意深く評価した結果、気流中には、不純物として金属原子が多数含まれていることが明らかになり、気流を乱すことなく非接触な計測に基づいて、気流診断を行うことが可能となった.そのため,膨張波管を用いて熱流束計測システム開発に予算を用いたが,当初予定よりは使用額が少なくなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も引き続き膨張波管を用いて、熱流束計測を実施する模型周りの発光分光計測を組み込み、金属種のスペクトル計算のためにアップデートされたSPRADIANを、数値流体解析組み合わせることで、純粋な試験気体からの熱流束を評価することを試みる.その際の模型の製作や熱流束計の構築に予算が当初予定よりも多く予算が必要となるため,今年度の残額を投じる予定である.
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Research Products
(9 results)