2015 Fiscal Year Research-status Report
アルツハイマー病危険因子SorLA細胞外領域の構造解明
Project/Area Number |
26840022
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北郷 悠 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (60507185)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | アルツハイマー病 / sorLA / 細胞外 / 結晶化 / 電子顕微鏡 / 動物細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,前年度にsorLA細胞外領域全長(sorLAect)の発現させる方法を発見したことにより,実験計画を変更してsorLAectの発現条件の最適化を進めた.sorLAectは20個のドメインで構成される2000残基以上の巨大なモジュラー蛋白質であり,これまで高純度に発現・精製に成功した例は報告されていないため,もちろん全体がどのような構造をしているかもわかっていない.筆者らはまず電子顕微鏡観察によってsorLAect全体構造を可視化することを目的とし,高品質のsorLAect蛋白質標品を安定して得られる発現・精製条件の探索を行った.当初はHEK293T細胞を使った接着細胞発現系を用いることで,培養上清200mLから50ug程度のsorLAectが得られた.この際に得られた量では,電子顕微鏡観察用サンプル調製にとっては少なすぎたため,さらなる発現系の改良を行い,浮遊細胞培養系を用いることで大幅な発現量の改善に成功した.加えて精製法の改良により,30mLの培養上清から100ug程度の精製標品を安定して得ることのできる体制を確立した.現在,電子顕微鏡観察用サンプル調製を試みている. さらに当初の研究計画には含まれていなかったが,筆者らが調製した精製蛋白質を抗原として用いて得られた特異抗体が,成功率が極端に低かったsorLA Vps10pの結晶化能を劇的に改善することを新たに発見した.新たに得られた特異抗体とVps10pとの複合体は,セットアップを行った翌日には結晶が成長し始めており,回折能も改善されていたため,その利用に向けた予備実験を進めた.このVps10p特異抗体は,Vps10pYEに対しても特異性を有していることを確認できたため,この抗体を利用した結晶化を試行していく予定である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度で発現を確認できたsorLA細胞外領域全長(sorLAect)について,試行錯誤の結果,かなりの高効率でさせることができた.精製法については,非特異的に蛋白質を失う手順の改善と濃度を下げすぎないことに留意して試行錯誤を行い,結果的に電子顕微鏡観察用のサンプルグリッドを調製するために十分な濃度と量を確保することが可能となった.この標品をゲル濾過およびネガティブ染色による予備的な電子顕微鏡観察を行った結果,蛋白質分子が溶液中に単分散していることが確認された.このような高品質な標品を安定的に産生できるようになったということは,当初の実験計画よりも高度な生化学実験が可能になったということを意味する.当年度は予定していたsorLAの分割フラグメントの調製を行わず,sorLAectの蛋白質取得法改善にエフォートを費やしたが,得られた蛋白質標品の重要性および品質を考えると,その選択と進捗は極めて妥当であったと考える. このようにsorLAectが取得できるようになった状況でも,当初から予定しているVps10pYEの結晶構造は,sorLAによるリガンド結合の詳細を明らかにする目的でその重要性が薄れてはいない.Vps10pYEが限外濾過による濃縮時に濾過膜に吸着してしまい,結晶化に供するだけの量を取得できない問題に関しては解決していないが,偶然発見したVps10pの結晶化能を劇的に改善する特異抗体は,Vps10pYEにも高い親和性で結合することを今年度の実験で確認しており,現在停滞している状況を打破できるものと期待される.さらに当年度はVps10pを材料として,Vps10p特異抗体の詳細な性状解析を行っており,今後Vps10pYEの結晶化を行うに当たって有益な情報を多く得ていることを考えると,おおむね順調に進展していると言える.
|
Strategy for Future Research Activity |
sorLAectに関しては,安定に精製標品を産生させる目処が立ったため,ネガティブ染色もしくはクライオ条件下での電子顕微鏡観察実験の実施が可能となった.現在までに行ったネガティブ染色による予備実験では,sorLAectのN末端およびC末端に存在する大きめのドメインは確認できたが,中間の非常に細長い部分に関しては原画像上では確認できなかった.この問題は,サンプル調製および画像解析の両面からの改善を試みる予定であるが,そもそも電子顕微鏡画像上でとらえることが困難であることは十分に予想される.しかし,当研究課題の目標は,sorLAectを単に可視化することだけではなく,全体構造および構造変化からsorLAの機能を探ることにある.それを実現するために,得られたsorLAectサンプルを用いた分子内相互作用および他分子との相互作用実験を行い,その結果を電子顕微鏡観察にフィードバックするような実験系を構築することを予定している.さらに,sorLAectの大量・高純度調製が可能になったことから,研究内容を大幅にアップデートする必要があると感じており,次の研究課題申請への準備と予備的な実験とを開始する予定である. Vps10pYEに関しては,限外濾過による濃縮の目処はついていないものの,以前のVps10pおよびsorLAectの精製条件を検討した結果から,かなりロスの少ない条件で高純度かつ高濃度のVps10pYEを調製できる目処がついた.加えてVps10pの結晶化能を強く促進する特異抗体の性状解析がかなり進んだため,この抗体を利用したVps10pYEの結晶化を早々に実施する予定である.また,結晶構造解析自体は,計画していたほど順調に進展していないが,精製法の検討によりVps10pYEを用いた高精度の生化学実験が可能になったので,Vps10pおよびsorLAectとVps10pYEを比較することで得られた知見を今年度でまとめて発表したい.
|