2014 Fiscal Year Research-status Report
複合体の結晶構造解析による微小管上のキネシン運動原理の解明
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26840030
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
牧野 司 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (10632896)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 構造生物学 / 細胞骨格・運動 / チューブリン / キネシン / 分子モーター / 微小管 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終的な目的は、結晶構造解析、生物物理化学手法により、神経軸索内輸送を行う分子モーターキネシンの運動を、レールである微小管がどのように促進するか、その仕組みを理解することである。 平成26年度は上記の目的のため、チューブリン(=微小管を主に構成するタンパク質)組み換え体の発現・精製法を改良し、高収量、高純度なヒトチューブリンを得る系を確立し、さらに世界初のヒトチューブリンの結晶構造解析に成功した。 タンパク質の結晶化には高濃度のタンパク質溶液の調製が必要だが、チューブリンは高濃度条件では重合して微小管を形成してしまうという問題がある。この問題をクリアするため、動的光散乱法により会合状態をチェックし、結晶化に適したチューブリン試料の探索を行った。当初予定していた微小管重合しない変異体チューブリン(=非重合チューブリン)は不均一な会合体を形成したため結晶化に適さないことがわかった。一方で新たに調製した微小管脱重合促進タンパク質の利用により、結晶化に適する均質なチューブリンサンプルが得られることが分かった。さらに結晶核を使ったシーディング法の利用により、世界初のヒトチューブリンの結晶化に成功した。得られた結晶は、SPring8の遠隔利用によって効率的に最適な結晶化条件と凍結条件を決定し、さらに創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業の放射光ビームタイムの測定枠を利用して、2.5オングストロームの高分解能構造を得る事ができた。 また、本研究で用いたヒトチューブリンは薬剤耐性を獲得したがん細胞において発現量が増える特殊なチューブリンであるが、薬剤の結合部位に従来のブタ脳から精製されたチューブリンと異なる構造的特徴を発見した。今回決定した詳細構造により、抗がん剤の薬剤耐性獲得の仕組みの解明や、また今後の新規薬剤の設計への貢献が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究によって、組換体ヒトチューブリンについて結晶化までの大量調製法を確立した。またヒトチューブリンの結晶構造を決定し、当初の目的の半分は達成した。また、抗がん剤耐性を持つ細胞のチューブリンの構造決定により、ガン治療薬開発に貢献しうる成果を上げたことで、当初の計画を上回る評価ができる。一方非重合チューブリンが予想に反して結晶化に適さないことがわかったが、その調製、評価までに時間がかったことで、キネシンとの複合体の結晶化に関しては未達成であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はキネシンとチューブリン複合体の立体構造を決定し、チューブリン変異体を使ったキネティクス測定、一分子解析により、キネシンの運動がそのレールである微小管によって制御される仕組みを解明する。複合体立体構造決定の方策は以下の通りである。(1) チューブリンに上述の微小管脱重合促進タンパク質を結合させ重合を阻害してキネシンとの複合体結晶解析を行う。 (2) もし結晶が得られない場合、クライオ電子顕微鏡単粒子解析によるキネシン・微小管複合体の立体構造解析を行う。代表者は27年度より東大医学部・生体構造学教室に異動したが、ここでクライオ電子顕による立体構造解析が可能である。 上述のようにして得られた複合体立体構造からキネシン・チューブリンの結合部位を変異させたチューブリン変異体を作成し、蛍光ヌクレオチドを用いたstopped-flow装置によるキネティクス計測、変異体微小管上のキネシン運動の一分子計測により、キネシンの運動がそのレールである微小管によって制御される仕組みを解明する。以上の研究により得られた知見を国内外の学会で発表する。
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Causes of Carryover |
当初計画していたSPring8での測定をすべて遠隔測定によって行うことが出来たので、出張旅費を浮かせることが出来た。また、研究室の異動の準備のために、2月に参加を予定していたアメリカ生物物理学会に不参加であったため、26年度に計画していた旅費を使用しなかった。一方で、チューブリン単独の結晶構造解析に当初の予定以上の試薬が必要であったため、出張旅費に計画していた費用の一部を消耗品経費に当てた。また26年度に計画していたキネシンとの複合体の構造解析を27年度に行うように計画を変更したため、消耗品費用として27年度にまわすことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のようにキネシンとの複合体の構造解析のために26年度に計画していた消耗品(結晶化試薬、結晶化プレート、生化学試薬)費用を27年度に使用する。また放射光施設での測定のための出張旅費、成果の発表のための国内外の学会への出張費用に使用する。
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