2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26840069
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
福田 智行 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (90415282)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | TOR / TORC1 / TORC2 / 低分子量GTPase / シグナル伝達 / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物間で高度に保存された2種のTOR複合体(TORC1とTORC2)はTORキナーゼを中心とするタンパク質複合体で、栄養や成長因子に応答して細胞の増殖や代謝等をコントロールする。本研究は、分裂酵母を用いてTOR複合体の制御因子群を同定し、活性制御機構の全貌解明を目指す。 本年度は分裂酵母を用いた探索により、複数の新規活性制御因子を同定することに成功した。Gtr1-Gtr2複合体とRhb1はいずれも低分子量GTPaseで、結合するヌクレオチドに応じてTORC1経路の活性を調節していると考えられている。そこでGtr1-Gtr2やRhb1に相互作用する因子の探索を行った。免疫沈降によりGtr1-Gtr2複合体に結合するタンパク質を回収した。質量分析の結果、4種の結合タンパク質を得たが、いずれの遺伝子欠損株もGtr1、Gtr2の遺伝子欠損株と同一の表現型を示し、二重欠損にしても付加的な効果は見られなかった。したがって、これら4種のタンパク質はGtr1-Gtr2と複合体を形成し、TORC1の活性制御に必須の役割を果たしていることが示唆された。次に、カラムに結合したRhb1にGTPあるいはGDPをロードした後、分裂酵母の抽出液から結合するタンパク質を回収する系を確立した。また、この系の最適化を図る際の指標として、哺乳類で既知の結合因子CADの分裂酵母相同タンパク質を用いたところ、GTP結合型Rhb1特異的に高い親和性を示すことを確認した。これらに加えて、TORC2の構成因子であるBit61タンパク質の遺伝子変異体の表現型を、過剰発現により抑圧する遺伝子を同定した。この遺伝子の単独欠損株は表現型を示さないが、Bit61の遺伝子変異と二重欠損にするとTORC2活性が著しく低下したことから、Bit61とはパラレルにTORC2の活性を制御する経路が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、分裂酵母を用いたスクリーニングによりTOR複合体経路の制御に関わる因子の候補を獲得することができている。また、遺伝子破壊株の表現型解析から、実際にTOR複合体経路の機能に関連した因子であることが確認されており、有意義なスクリーニングが行われたといえる。更に、スクリーンニングで獲得した因子や既知のTOR複合体経路関連因子について、今後の解析で使用する遺伝子欠損株やエピトープタグあるいは蛍光タンパク質を付加した株の作製を既に完了しており、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、スクリーングで獲得したTOR複合体の活性制御因子群と既知のTOR複合体関連因子群との関係を調べる。各因子間で二重遺伝子破壊株を作成して遺伝子欠損による効果が互いに付加的かどうかを確認し、各因子の機能が同一の経路かパラレルな経路かを決定する。また、それぞれの遺伝子破壊株の影響が他の因子の過剰発現によって抑圧されるかどうかを確認することで、因子間の上流、下流の関係を決定してゆく。更に、同一の経路ではたらく因子間の物理的相互作用を免疫沈降法やインビトロ結合アッセイで検討する。こうした解析により、制御因子間の分子ネットワークを明らかにしてゆく。 次に、TOR複合体の上流因子群がどのようにしてTOR複合体の活性を制御するのかを明らかにする。各制御因子の局在観察を行い、刺激の有無で局在が変化するかどうかを検証する。また、TORキナーゼのリン酸化活性、TOR複合体の局在や標的分子との結合能等を刺激の有無で比較し、活性制御の作用点を探索する。更に、制御因子の中でも特徴的な細胞内局在や酵素活性、修飾、他因子との結合といった分子特性が同定されれば、そうした特性が刺激により変動するか、他の制御因子の欠損や過剰発現の影響を受けるかどうかを詳細に調べる。 上記の解析によって分裂酵母で得られる知見が哺乳類細胞でも保存されているのかを明らかにする。哺乳類の相同タンパク質を、培養細胞においてノックダウンや過剰発現し、TORC1及びTORC2の標的タンパク質のリン酸化状態を評価することで活性への影響を調べる。
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Causes of Carryover |
研究の進捗に応じて当初想定していた予算執行計画の一部を変更したため、未使用額が生じた。これは主に、分裂酵母を用いたスクリーニングにおいて予想していた以上にポジティブな候補因子が獲得されたため、分裂酵母の遺伝子欠損株の作製や解析を優先的に行い、培養細胞を用いた解析の一部を次年度にシフトさせたことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用分を含めた予算執行計画を次年度には予定している。分裂酵母の解析のための培地と消耗品、タンパク質解析用試薬、酵素やオリゴヌクレオチドを含むDNA解析用の試薬に加えて、細胞培養に用いるピペットやディッシュを含む消耗品、培地や血清、遺伝子のノックダウンや過剰発現のためのトランスフェクション用試薬類の購入を計画している。また、成果を発表するために学会への参加費用を計上している。
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