2014 Fiscal Year Research-status Report
オタマボヤをもちいた発生遺伝学の展開に向けた遺伝学技術の導入と発生現象の調査
Project/Area Number |
26840079
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小沼 健 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30632103)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オタマボヤ / 発生遺伝学 / イメージング / ノックダウン / 脊索動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
オタマボヤ (Oikopleura dioica) は私たちと同じ脊索動物門に属しながら、5日という世代時間、3000個程度の細胞数など、実験動物として多くの可能性を備えている。本研究では、遺伝学技術の導入と、その展開にそなえた発生現象の調査という柱をたてて研究を進めた。以下、H26年度の進捗を述べる。 (1) 遺伝子導入のため、トランスポゾンの転移酵素とEGFPの融合タンパク質の合成mRNAを注入し、発現を調べたところ、顕微注入しても発現しないmRNAが半数以上を占めていた。これは、ホヤにはないオタマボヤ特有の性質のようで、現在いくつか改善を試みている。 (2) DNAコンストラクト導入の過程で、直鎖状の二本鎖DNAを注入すると、配列特異的なノックダウンが起こることを見出した。これをDNA interferance (DNAi)と命名した。こちらもまたホヤにはない、オタマボヤに特有の性質であり、多細胞動物では最初の報告例である (Omotezako et al., 2015)。 (3) 15世代以上の近親交配を行い、純系を作成した。現在、ゲノム配列の決定を試みている。 (4) 卵巣へのmRNA注入により可変蛍光タンパク質であるKaedeを発現させ、2細胞期の割球(将来の体のおおむね右側と左側に対応する)の片側のみを赤く蛍光標識する方法を確立した。オタマボヤは受精後10時間で器官形成がほぼ完了するため、幼若体の細胞1つ1つを識別するのに十分な強度の蛍光を観察することができる。その結果、多くの器官や組織が、細胞系譜レベルの非対称性を持つことが明らかになりつつある。 (5) 核や細胞膜の蛍光ライブイメージング法を確立し、孵化後の幼生における3種類の移動細胞を発見した (Kishi et al., 2014)。さらに、表皮細胞のパターン形成の追跡にも成功し、現在さらに解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「単純な体制の脊索動物」であるオタマボヤをもちいた発生遺伝学を行うため、遺伝学技術の導入と発生現象の調査という2つの柱のもと研究を進めた。予定通りに進まない点もあるが、予想外に進展した点がそれを上回っており、当初の計画以上に進展していると判断している。以下、研究項目毎に理由を述べる。 (1) 遺伝学的手法について。トランスポゾンによる遺伝子導入や、TALENによる遺伝子切断の試みは苦戦しており、今後さらに検討が必要である。しかし検討の過程で、二本鎖DNAによりRNAiと似たノックダウンが起こる現象としてDNAiを見出した。これは脊索動物のみならず、多細胞動物でも初めての生物現象の発見といえる。 (2) DNAiをもちいれば、母性mRNAと胚性mRNAのいずれも、簡便に、安価に、効率よくノックダウンすることができる。これにより、胚発生や器官形成の制御遺伝子の機能的スクリーニングが、当初の予定よりもはるかに早く進められるようになった。 (3) 近交系の作成に成功し、予定を前倒ししてゲノム配列の決定を行うことができる。またRNA-seqにより、ノルウェー産オタマボヤのゲノム上の予想遺伝子のうち95%以上に対応する転写産物の配列を決定し、発生遺伝学的アプローチの基盤を構築できたため。 (4) 左右非対称性の形成について。nls-Kaedeによる2細胞胚の割球標識と、子孫細胞の追跡ができるようになった。担当の大学院生の条件検討により最適条件が整い、期待した以上の新知見が得られているため。 (5) 表皮細胞の配置パターン形成について。蛍光ライブイメージング法を活用して、多くの新知見が得られたため。使用できる蛍光マーカーの種類も、核と細胞膜のみだった開始当初に比べ、この一年間で期待した以上に増えている。これらを他の発生現象の解析にも展開しているところであり、さらなる進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の方向性で研究を進める。 (1) これまでの経験から、オタマボヤは、ホヤやゼブラフィッシュなどの他の動物モデルと異なり、転移酵素やTALENなどの外来mRNAが翻訳されない例が多いことが分かってきた。これが遺伝子導入が長年にわたり上手くいかない主要因の1つといえるので、改善を計りたい。最近、オタマボヤでは母性mRNAにトランススプライシングリーダー配列が多く付加されていることが見出されているので、これを付加した合成mRNAをテストする予定である。他にも、ゲノムへの遺伝子導入法の1つとして、幅広い動物細胞に感染できるパントロピック型の組換えレトロウィルスをもちいる方法も試していきたい。 (2) 現在、DNAiによる母性mRNAの機能的スクリーニングを進めているところである。さらに今後は、ザイゴティックに発現するmRNAも標的としていく。受精後10時間で器官形成が完了するという発生の早さと組み合わせることで、脊索動物が「卵から幼若体になるまで」のすべての発生過程を標的にして、ノックダウンの表現型をとらえることができると期待できる。 (3) 日本産オタマボヤのゲノム配列の決定と、遺伝子アノテーションを行う。 (4) 2細胞胚の割球標識をもちいた解析を進めて、すべての器官について系譜の非対称性を明らかにする。核に局在するnls-Kaedeだけでは形態的に識別が難しい細胞、たとえば神経細胞などは、別のマーカーの導入も検討していく。 (5) 表皮細胞のパターン形成については、各領域の由来を蛍光タイムラプスや、Kaedeによる標識法などを統合的にもちいて調べていく。
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Research Products
(9 results)