2015 Fiscal Year Research-status Report
光遺伝学を用いた形態形成における電気シグナルの機能解析
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26840080
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
荒巻 敏寛 大阪大学, 生命機能研究科, 招聘研究員 (30525340)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 形態形成 / 電気シグナル / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ゼブラフィッシュ模様形成における電気シグナルの機能解析 26年度に作成した色素細胞に改変型チャネルロドプシンを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを用い、体表模様形成時に光照射により人為的に色素細胞の膜電位を脱分極させ、内在の電気シグナルを撹乱する実験を行った。このトランスジェニックフィッシュは光照射条件下(膜電位の撹乱あり)で飼育すると、野生型のような明確な縞模様は形成されず、不定形の小斑が散在する状態になる。次に、この状態の魚を暗条件下(膜電位の撹乱なし)での飼育に切り替えたところ、小班同士が融合し縞を再形成した。しかしながら、再形成された縞模様は野生型のような縦方向の直線的な縞模様ではなく、曲がりくねった迷路状の縞模様であった。この結果から、ゼブラフィッシュの縦縞の方向性は模様形成最初期のパターン(初期条件)に依存しており、色素細胞における電気シグナルは初期条件に習った縞の方向性の維持に必要であると考えられる。また、上記で見られたような初期条件に依存した模様の方向については「反応拡散モデル」を用いたシミュレーションでも同様の結果が得られる。このことから、ゼブラフィッシュの縞模様形成メカニズムに同モデルの原理が働いていることが示唆された。
2. 発生過程における電気シグナルの機能スクリーニング 26年度の実験で、チャネルロドプシンを活性化させるための青色光が発生期の胚に毒性を示すことが示されていた。よってまずは、通常の胚発生に影響を与えない程度の青色光強度の条件検討を行った。こうして特定した低毒性の光照射条件下で、上記1の実験で用いたものと同じ改変型チャネルロドプシンを強制発現させた胚を飼育したが、明確な形態異常は観察されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. ゼブラフィッシュ模様形成における電気シグナルの機能解析 当項目に関しては、当初の研究目標を概ね達成できていると考えている。光照射条件を変えることにより模様を変化させることに成功しており、様々な光条件下で飼育することにより、多様な模様を形成させることができると期待される。
2. 発生過程における電気シグナルの機能スクリーニング 当項目に関しては遅延が生じている。胚発生期における青色光の毒性は光強度の条件検討により概ね回避することができたが、現在の実験条件では形態への明確な影響は観察できていない。目標の達成には更なる実験条件、手法の検討が必要であるが、可能性として発生初期においては電気シグナルは主要な形態制御メカニズムとして使われていない、ということも考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. ゼブラフィッシュ模様形成における電気シグナルの機能解析 これまでの研究成果から、連続的な脱分極状態を人為的に誘導することで模様形成を乱すことには成功している。一方で、この手法を用いて色素細胞の内在性の電気シグナルを模倣し、直接的に色素細胞の挙動を制御することは可能だろうか?このことを確かめるために、トランスジェニックゼブラフィッシュのヒレより単離した色素細胞をin vitroで分散培養し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて単一の色素細胞を局所的に刺激する実験を行う。これまでの論文報告から、脱分極を誘導した側とは逆の方向に色素細胞の移動が起こると予想される。
2. 発生過程における電気シグナルの機能スクリーニング 胚発生期に照射できる青色光の強度には制限があるため、より効果を高めるためには発現させるチャネルロドプシンを改善する必要がある。近年、開口時の最大電流量が従来型の60倍にも達する改変型チャネルロドプシンが報告された(ChR2-XXL, Dawydow, PNAS, 2014)。このChR2-XXLを用いることで、低い光強度条件下でも高い効果が得られることが期待される。また、光照射の制約を避けるため、光照射非依存的に膜電位を変化させる手段についても引き続き検討する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、26年度に光照射装置を備えた大規模水槽システムの設置を予定していた。しかしながら、実際に実験を行っていくうえで様々な光照射条件の検討を行うことが必要になったため、小型の水槽とLED灯を組み合わせたコンパクトな光照射システムを多数作成する計画に変更した。また、インキュベーターなどは研究室に既存の機材を流用することができたため、当初の計画よりも大幅に支出を削減することができた。このことから、27年度分に生じた次年度使用額の大半は26年度分からの繰り越しである。また、研究項目2「発生過程における電気シグナルの機能スクリーニング」において計画の初期段階で問題が生じてしまったため、当該項目の予算があまり使用されなかったことも次年度使用額が生じた原因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した予算は、主に研究の進行に遅延が生じている研究項目2「発生過程における電気シグナルの機能スクリーニング」の目標達成のための費用に充てる予定である。また、概ね目標を達成した研究項目1「ゼブラフィッシュ模様形成における電気シグナルの機能解析」に関しては、これまでの研究成果を踏まえたうえでの更なる解析として、電気シグナルの機能を細胞レベルで明らかにするためにin vitro培養系を用いた実験を計画している。繰り越した予算の一部はこの実験の費用に充てたいと考えている。
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