2015 Fiscal Year Research-status Report
脊椎動物のヒレ・四肢骨格形態差を生みだす糖鎖修飾と発生メカニズム
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26840084
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
矢野 十織 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10648091)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 糖鎖 / 骨格 / ゼブラフィッシュ / マウス / 鰭 / 四肢 / 形態形成 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、脊椎動物の有対付属肢(胸ビレや四肢)の骨格形態差を生みだす一因として、Exostosin (Ext)遺伝子群による糖鎖修飾の関与がある可能性を昨年度までに見い出した。本年度はExt遺伝子群のうちの4遺伝子(Ext1b, Ext1c, Ext2, Extl3遺伝子)の機能を遺伝学的に解析するため、CRISPR/Cas9システムを用いて4遺伝子をそれぞれノックアウトした個体(F0世代)の子孫(F1世代)を得ることに成功した。また4遺伝子のうち任意の2遺伝子を選んでダブルノックアウト個体を作製したところ、鰭条骨形成領域(四肢には無く胸ビレに存在する)が欠失する2遺伝子の組み合わせがあることが判明した。4遺伝子のmRNAの局在をwhole-mount in situ hybridization法によって解析したところ、鰭条骨形成領域のみに発現する遺伝子や、鰭条骨形成領域・軟骨内化骨形成領域共に発現する遺伝子など、遺伝子発現パターンの違いが4遺伝子間で観察された。したがってExt遺伝子群はこれまでに国内外での多くの先行研究によって骨形成に関与することが分かっていたが、本研究によってExt遺伝子がどの領域・どの組み合わせで発現するかによって骨形成機構が変化する可能性が浮上した(矢野ら、第121回日本解剖学会総会・全国学術集会(2016年3月)にて報告)。 また本年度は昨年度に開始できなかったマウス四肢におけるExt遺伝子の機能解析を実施した。Ext遺伝子を四肢特異的にノックアウトする実験系を立ち上げ、四肢骨格の評価を行った。先行研究ではExt遺伝子の欠損によるヒトやマウスの四肢長骨の形成異常(骨の短縮や骨軟骨腫)が報告されていたが、現時点までに研究代表者・矢野の実験系では指の欠失や四肢骨格パターンの明瞭な変化など、生後0日目から外見上明らかな骨格変化が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は研究費配分が所属機関全体として遅れたために研究の進捗に支障があった。本年度はこの遅れを取り戻すのに十分な研究の進捗が得られた。具体的にはゼブラフィッシュ変異体の作製、マウス変異体の作製といった本研究の中心となる実験系が機能し、研究計画段階で予想できた結果・予想外の結果のいずれのデータも得られた。特にこれまで研究代表者・矢野がゼブラフィッシュを用いて得た結果の派生研究として計画したマウスの遺伝子機能解析は、ゼブラフィッシュに比して費用や手間がかかるだけでなく、骨格異常が表現型として得られるかどうか申請段階から不安な側面もあった。しかし現在までに得られたExt遺伝子欠損マウスの四肢骨格表現型は明瞭であり、これを以ってして当初の計画以上の成果が得られているとも言えよう。ただし糖鎖修飾の生化学的解析に着手できていない点は一部遅れがあると評価せざるを得ない。 また同時進行的に遂行した内容の異なる研究課題(基盤研究(C)、研究代表者:岡部正隆、矢野は分担研究者として参画)でも一定の成果が得られ、さらに人体解剖学・組織学実習等の医学教育活動にも従事したが、これら活動エフォートは本研究課題に対するエフォートを圧迫することなく予定通りに研究推進することができた。 本研究課題を継続して遂行することによって骨形成研究・四肢発生研究・進化発生学的研究への寄与と、Ext遺伝子群を基軸とした次なるステップへの研究発展が可能になる。これは独立した若手研究者に対して将来の発展が期待できる個人研究を推進する、若手研究(B)の理念に合致した進捗状況であると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュ変異体・マウス変異体を用いた遺伝子機能解析において、本年度は予想通りあるいは予想を超えた成果があった。来年度(最終年度)にこの成果を学術論文として性急に報告するよりは、Ext遺伝子群の現象論に留まらない詳細な分子メカニズムを解明したうえで、クオリティの高い論文として社会に還元すべきだと考えている。したがって来年度は当初の年度計画通りの時間を十二分にかけて生化学的解析・分子生物学的解析を行い、骨格パターンと糖鎖修飾の関連性に迫ろうと考えている。これに際して実験動物の飼養数限界やサンプルの回収状況、また進捗の遅れから昨年度に繰り越した研究費の残額を加味すると、再来年度にまで研究期間を延長し、残り2年間をかけて徹底的に解析を行おうと現時点で構想している。 来年度に行う生化学的解析については、昨年度に解析費用を繰り越しており、また今年度ゼブラフィッシュ変異体を作製成功したことから具体性をもって検証可能である。また分子生物学的解析に関しては、当初申請書では主にゼブラフィッシュ変異体についてのみ詳細に解析する予定であった。しかし本年度にマウス変異体でも興味深い骨格の表現型を得られたことから、四肢の形態形成メカニズムについてもゼブラフィッシュのそれとの比較対象として詳細に解析する必要があると考えている。そこでin situ hybridization法や免疫染色法を用い、四肢の発生過程における骨・軟骨形成の様子を観察する実験を追加する。これら実験系はゼブラフィッシュ解析用試薬と共用できるものであるため、研究計画の追加に係る経費は本研究計画の範囲内で賄うことができる。
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Causes of Carryover |
昨年度の研究開始時期が所属機関全体として遅れたためにゼブラフィッシュ変異体の作製・飼養が遅れ、本年度終了間際(平成28年3月)に遺伝子改変個体の子孫個体(F1世代)の受精卵を入手することが可能になった。したがってこのF1世代を用いた糖鎖修飾状態の生化学的解析が本年度中に間に合わず、これに係る生化学的解析費用が次年度使用額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に解析できなかった生化学的検査は研究計画上必須な解析のため、確実に次年度より行う。
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Remarks |
研究代表者・矢野が本年度に寄与したその他の業績: 1) Hayashi et al (2015) Zoological Letters, 1:17. 2) Moriyama et al (2016) Nature Communications, 7, 10397.
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Research Products
(2 results)