2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26840091
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長尾 遼 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30633961)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光合成 / 水分解反応 / 赤外分光 / 植物・藻類 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物や藻類が行う光合成水分解反応は、葉緑体中のチラコイド膜に存在する光化学系IIタンパク質複合体(PSII)によって行われる。PSIIのX線結晶構造解析により、触媒部位であるマンガンクラスターの構造およびその周辺のアミノ酸や水分子との相互作用が明らかとなった。さらに、水の分解により生じるプロトンの放出経路が予測された。本研究では、マンガンクラスターのアミノ酸配位子およびプロトン放出経路上のアミノ酸の光合成水分解反応における役割を明らかにするため、これらアミノ酸に対する部位特異的変異体を作成し、赤外分光法による解析を行う。 本年度は、遺伝子組み換えが容易であるシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803を用いて、D1もしくはD2タンパク質上に存在するマンガンクラスターのアミノ酸配位子およびプロトン放出経路上のアミノ酸の部位特異的変異体を作成した。マンガンクラスターのアミノ酸配位子であるD1-D170, D1-E189, D1-H332, D1-E333, D1-H337, D1-D342の変異体は全て光独立栄養的に生育しなかった。一方、プロトン放出系路上の11個のアミノ酸の変異体は、それぞれ光独立栄養的に生育した。このことは、マンガンクラスターのアミノ酸配位子が光合成水分解反応において必須であることを示唆している。現在、光独立栄養的な生育が確認できた変異体のうち、D1-N298に着目し、PSIIを精製し、フーリエ変換赤外分光法による解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、遺伝子組み換えが容易であるシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803を用いて、マンガンクラスターのアミノ酸配位子およびプロトン放出経路上のアミノ酸の部位特異的変異体を作成した。マンガンクラスターのアミノ酸配位子であるD1-D170, D1-E189, D-1H332, D1-E333, D1-H337, D1-D342の変異体は全て光独立栄養的に生育せず、一方、プロトン放出系路上の11個のアミノ酸の変異体はそれぞれ光独立栄養的に生育した。このことは、マンガンクラスターのアミノ酸配位子が光合成水分解反応において必須であることを示唆している。 PSIIのX線結晶構造解析により、二つのプロトン放出経路(Yz経路およびCl経路)が予測された。D1-N298はYzとD1-H190に近接しているため、Yz経路に与える影響が大きいと考えられる。そこで、D1-N298をアラニンに置換した変異体(D1-N298A)の解析を進めた。D1-N298A変異体の生育速度は、野生株に比べやや減少した。酸素発生活性は、野生株の1/10程度まで減少した。チラコイド膜を単離し、遅延発光を測定したところ、S2もしくはS3で反応が止まった。このことから、D1-N298は水分解反応に大きな影響を与えていることが明らかとなった。現在、変異体からPSIIを精製し、フーリエ変換赤外分光法による解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
マンガンクラスターのアミノ酸配位子の変異体は、光独立栄養的に生育しなかった。Synechocystis sp. PCC 6803は、グルコースを加えることで混合栄養的な生育が可能である。この条件で培養した細胞からチラコイド膜を単離し、遅延発光や熱発光による解析をすることでS状態遷移がどこまで進むか調べる。これにより、マンガンクラスターのアミノ酸配位子の水分解反応における役割が明らかとなるだろう。 プロトン放出経路上のアミノ酸の変異体のうち、チラコイド膜での解析が進んでいるD1-N298A変異体からPSIIを精製する。得られたPSIIを用いて、フーリエ変換赤外分光法による解析を行い、D1-N298がS状態の遷移効率および水素結合ネットワークに及ぼす影響を調べる。これにより、プロトン放出経路としてYz経路が使われているかどうか明らかとなるだろう。 D1-N298Aに加え、D1-D61A変異体の解析を行う。D1-D61は、Cl経路上に存在するアミノ酸のうち、マンガンクラスターに最も近いアミノ酸である。D1-D61AとD1-N298AのPSIIを用いて、時間分解赤外分光法による解析を行うことで、プロトン放出に関わる時定数を見積もる。これにより、Yz経路およびCl経路を利用したプロトン放出機構が明らかとなるだろう。
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Causes of Carryover |
直接経費のうち、物品費とその他で差額が生じた。物品費においては、メーカーと交渉し、できるだけ価格を安くしたことが理由である。一方、その他においては、論文の投稿費がかからなかったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、国際学会に二回参加する予定なので、次年度使用額を旅費や参加費に充てる。
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Research Products
(8 results)