2015 Fiscal Year Research-status Report
スベリン合成制御因子を利用したカスパリー線機能強化植物の作出
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26840103
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
大島 良美 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究員 (00722951)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 転写因子 / スベリン / 根 / 種子 / カスパリー線 |
Outline of Annual Research Achievements |
根の疎水性バリアは植物にとって欠かせない構造であり、ストレス耐性の獲得に寄与している。主要成分の一つスベリンの形成制御因子の候補LATE MERISTEM IDENTITY 2 (LMI2) が根のスベリン形成をどのように制御するかを調べる為、スベリンモノマー(脂質性ポリエステルモノマー)のGC-MSによる定性・定量分析が重要となる。昨年度、定量分析方法の立ち上げに際し、スベリン含有組織である種子のポリエステル組成を調べた結果、lmi2-2変異体ではポリエステル組成が変化していることが明らかになった。そこで、スベリンの機能に異常があるかどうか、根に先駆けて、スベリンが関与することが知られる種子の保存性を基準に調べた。人工的な劣化試験の結果、lmi2-2変異体では種子の保存性が低下していた。根や種子で発現するプロモーターCYP77A6proの下流でLMI2に強力な転写活性化ドメインであるVP16を融合させて発現させたシロイヌナズナを作成した。こちらについても種子の劣化耐性を調べた結果、劣化しにくくなることが明らかになった。ところが、LMI2のプロモーター活性を、GFPをレポーターとして解析した結果、LMI2はスベリンを蓄積するouter integument 1ではなくouter integument 2で発現していた。Outer ingegument 2はクチクラを蓄積することから、ポリエステルの変化はクチンの変化が原因である可能性が考えられた。実際に電子顕微鏡でlmi2-2変異体とLMI2-VP16の種子表面を観察した結果、クチクラがそれぞれ減少又は肥厚していることが明らかになった。つまり、LMI2はスベリンではなくクチクラを制御することで種子の劣化耐性を付与していることが明らかになった。このことは、これまで知られていないクチクラの新たな機能を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
LMI2のタンパク質機能、生理機能を明らかにする為、すでにスベリンに関与している可能性が示唆されていた種子で解析を進めたが、スベリン以外のポリエステルにのみ関与している可能性が示唆され、スベリンとの関与は明らかにならなかった。 側根の形状や伸長速度を指標にしたスクリーニングでは、想定していた以上に側根の出方にばらつきが大きかったため、野生型より側根の育ちが遅い個体を判別できる条件を決定するまでに時間がかかった。現在は、生育条件をしぼりこみ、スクリーニング可能になった。幸いにも、他のグループの最近の報告で、カスパリー線の異常が側根形状や伸長速度に影響することが報告された為、一回のスクリーニングでスベリンとカスパリー線両方に関与する遺伝子が得られる可能性が高まった。これまで得られた候補遺伝子について、今後は詳しく解析する予定である。 研究過程で、スベリン制御因子の候補が複数転写因子同時に働くことにより転写活性を示すことがわかり、酵母によるスクリーニングが目的に合わない可能性が高まった為、今後は植物を用いてプロモーターの上流の転写因子の同定を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.これまでに改変したスベリン分析法を用いて、根で明確なスベリン減少の表現型が現れるLMI2pro:LMI2-SRDX植物を解析する。さらに、遺伝子発現、GFP-LMI2-SRDX植物等を用いてChIP-Seq等の解析を行うことにより、LMI2の根のスベリン層形成における役割を明らかにする。 2.植物のトランジェントアッセイ系により、カスパリー線またはスベリン形成因子の発現を制御する転写因子を同定する。 3.全転写因子からスベリンおよびカスパリー線形成制御因子のスクリーニングを行い、得られた候補因子について、根のスベリン量やカスパリー線の形成に変化があるかなどを解析する。 4.上記スクリーニングで同定した転写因子及びLMI2の中から、スベリンの分析、カスパリー線の観察、遺伝子発現解析等からスベリン形成またはカスパリー線形成の制御に関与することが明らかになった因子について、過剰発現株の塩耐性やイオン蓄積量・取り込み量の測定等を行い、カスパリー線及びスベリン層の機能評価を行う。
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Causes of Carryover |
研究過程で、スベリン制御因子の候補が複数転写因子同時に働くことにより転写活性を示すことがわかり、酵母によるスクリーニングが目的に合わない可能性が高まった為、植物を用いてプロモーターの上流の転写因子の同定行うように計画を変更した。こちらの実験に使用する消耗品費が未使用になっている。また、LMI2が高発現しにくい遺伝子であることなどから、高額な消耗品を必要とするChiP-Seq、マイクロアレイ等の実験が遅れているためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ChIP-Seq, マイクロアレイを行う消耗品費、遺伝子実験関連の消耗品費、スベリンのGC-MS解析のための消耗品費、植物におけるプロモーター活性測定のための消耗品費、植物栽培や蛍光顕微鏡維持に関する費用として使用する。
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Research Products
(5 results)