2015 Fiscal Year Research-status Report
魚類の遊泳速度と側線系に関する研究:高速遊泳魚の側線系は退化傾向にあるか?
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26840132
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
中江 雅典 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (30462807)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 側線 / 硬骨魚 / 形態 / 環境適応 / サケ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究により,高速遊泳魚であるシイラ科シイラに加え,アジ科,テンジクダイ科,ハタンポ科,ササウシノシタ科など,計33種において側線の詳細な観察を行った. スズメダイ科のカクレクマノミでは,側線有孔鱗数の2枚に1個の割合で管器感丘があることが判明した.側線鱗1個につき感丘1個(もしくはそれ以上)が通常であり,本種は珍しいケースである.同科のソラスズメダイにおいても,側線鱗と感丘は1対1の割合であり,側線器官と鱗の関係を示す新しいケースとして興味深い. ササウシノシタ科の観察においても,有眼側と無眼側で感丘の数やサイズが大きく異なることを発見した. 平成26年度のサケ科のイワナとビワマスの側線の仮解析では,サバ科内やハゼ科内の種間ほどは側線の配列などに差異がなかったが,平成27年度に詳細な解析を行った結果,ビワマスの方がイワナよりも優位に感丘(側線の感覚器官)数が多いことが判明した.特に管器感丘の数が多いことが特徴的であった.イワナは水流が比較的激しい渓流域に生息する種として,ビワマスは水流が穏やかな止水域に生息する種として,先述の定説を検証する1課題の観察であったが,この2種の比較では“定説“をある程度支持する結果となった.しかしながら,Chagnaud and Coombs (2014)の側線に関する総説では,管器感丘は流れなどのノイズがある中での振動の発生源の探知に主に関わり,表在感丘は周囲の大きな流れの関知や緩やかな水流中での走流性に主に関わっているとされている.比較的ノイズが少ない環境に生息するビワマスで管器感丘が増加するセレクションが掛かっていた点は新たな発見であり,検討の必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,高速遊泳魚であるシイラ科シイラに加え,アジ科,テンジクダイ科,ハタンポ科,ササウシノシタ科など,計33種において側線の観察を行った.研究開始前では,50種の観察を最低ラインとして設定し,硬骨魚の遊泳速度と側線系の関係を明らかにすることを目的としていた.今年度の33種を加えると,この50種の観察ラインを超えたことになる.よって,研究計画以上の進展があったと考える.しかしながら,研究開始前に設定した重要種であるシイラ科シイラの確保が平成27年度は1個体だけであった.よって,本種に関しては,種としての特徴をある程度把握しつつも,十分な観察を行えたと言い難い状況である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はデータの追加と解析が主な作業となる.硬骨魚における側線系において,ある程度の傾向をつかみつつあるが,やはり例外も多く,より妥当な解析結果を得るために観察種数を増やす予定である. 観察種数の追加と同時に,重要観察種として挙げたシイラ科シイラの観察個体の追加も行う.平成27年度は水族館職員の協力や関連漁師の厚い協力もあったが,希にみるシイラ不漁のため,十分な観察を行えなかった.引き続き,協力を得て確保に努める. 高速遊泳魚であるシイラの確保に努めるが,自然相手であるので,不確定要素も大きい.よって,同じアジ上科の高速遊泳魚であるブリなどの観察も視野に入れる必要があると考えている.
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Causes of Carryover |
平成27年度はシイラ科シイラの十分な採集調整を行えなかった.シイラ以外では,現地採集以外の収集方法でも,効率良く試料の確保が行えた.よって,旅費や関連予算の使用をしなかった点が次年度使用額の生じた主な理由である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年においては,観察重要種の追加確保のための旅費および関連費用を年度当初に使用する予定である(観察に適したサイズを得られる時期がある程度限られるので).確保した試料をより良い状態で観察するための飼育水槽も手配する予定である.
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