2015 Fiscal Year Research-status Report
視覚がもたらす花序形態の適応進化:送粉者の種間比較から探る最適な「見た目」の解析
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26840139
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
牧野 崇司 山形大学, 理学部, 研究員 (00634908)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 花色 / 過分散 / 植物群集 / 送粉者 / 色覚 / 視覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物媒植物の多くは花を複数まとめて咲かせる。この「花序」の役割のひとつに、花粉を運ぶ送粉者に対する誘因効果の増大があげられる。本研究の目標は、人工花を用いた実験により花序の最適な見た目を明らかにすることである。その際に用いる花の「色」は送粉者との相互作用を論じる上で重要であることから、初年度は野外の花の色の解析に注力し、「同じ地域で同時に咲く花の色が種間で異なる傾向(花色の過分散)」を発見した。2015年度はまず、以上の成果をPLOS ONE誌において発表した。 初年度の結果から、植物は他種とは異なる色の花を咲かせることで異なる種類の送粉者を誘引し、異種間の花粉移動を減らしている可能性が強く示唆された。しかし、花色の過分散と送粉者の種類を結びつけたデータはない。そこで2015年度は、送粉者の種類と花色の関係を明らかにするための野外調査を32週にわたり行った。その結果「花色が異なると訪れる送粉者の種構成が異なること」や「送粉者のグループと特定の花色との結びつき」が明らかになった。 野外調査が順調に進んだ一方で、行動実験に用いるシマハナアブ(Eristalis cerealis)の飼育系の確立については課題の残る結果となった。失敗に終わった初年度の反省をふまえ、防腐剤を用いた水カビ対策や飼育容器の保温などを実施したものの、第1世代の親アブから得た大量の幼虫を、成虫まで育てることができなかった。 なお、マルハナバチを用いた花序の見た目の解析については少しずつ成果が出始めている。「花色変化」という形質に着目し、色変化をする株・しない株を人工花で作成しハチの行動を比較したところ、色の組み合わせによって結果が異なることがわかりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた行動実験については遅れ気味である。一方で、準備のために行った野外調査から、派生的ながらも花序の色と植物群集の関係についての重要な知見を得ただけではなく、花序の色と訪花者群集との対応関係を明らかにしつつあることを考慮すれば、計画以上に進展したと言える。以下、それぞれ具体的に述べる。 2015年度における一番の成果は、花色の過分散を示した初年度の成果をさらに発展させ、「花色が異なると訪れる送粉者の種構成も異なること」や「送粉者のグループと特定の花色との結びつき」を示すデータをつけ加えたことである。様々な分類群を含む植物群集において花色の過分散の検出を試みた研究例はいくつかあるものの、実際に検出されたのは1例のみであり、送粉者の種組成との関連を調べた例はなかった。2015年度の成果は、花色の過分散が、実際に異種間の花粉移動を減らしている可能性を強く支持するものであり、送粉生態学の分野だけでなく、群集構造の解明に取り組む研究者の注目を大きく集めることが期待される。なお初年度の結果をPLOS ONE誌において公開したことも大きな成果である。 一方で、本研究の大きな特色のひとつとして掲げていた、ハナアブを用いた実験系の確立は2015年度も順調には進まなかった。ただし、マルハナバチを用いた行動実験については、当初の計画から遅れてはいるものの、少しずつ成果が出始めている。「花色変化」という形質に着目し、色変化をする株・しない株を人工花で作成しハチの行動を比較したところ、色の組み合わせによって結果が異なることがわかりつつある。引き続き実験を行うことで一定の成果が得られる目処が立ったことは2015年度の重要な成果のひとつである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた成果をふまえ、野外調査と室内行動実験の2本立てで研究を進める。 初年度の調査では「同じ地域で同時に咲く花の色が種間で異なる傾向(花色の過分散)」を発見し、2015年度の調査では「花色が異なると訪れる送粉者の種構成も異なること」や「送粉者のグループと特定の花色との結びつき」を明らかにした。以上の結果は花色の過分散が、実際に異種間の花粉移動を減らしている可能性を強く支持するものである。しかしながら先行研究では送粉者の種構成の年変動がしばしば報告されており、送粉者の種構成と花色の関係も同時に変化する可能性が残されている。そこで最終年度は、2015年度と同様の調査を行い、結果の再現性を確認する。そして得られたデータをもとに花色の過分散と送粉者の種構成の結びつきを議論し、論文として公開する。 室内ではマルハナバチの行動実験に注力し、花色変化する花序・しない花序に対するマルハナバチの反応を集中的に調べる。この実験では、3色の花を組み合わせて実験を行っているが、現在までに、色の組み合わせによって花序に対するマルハナバチの行動が異なることがわかりつつある。最終年度は同様の実験を繰り返して結果の再現性を確認するほか、さらにもう1色を追加することで、最適な見た目を持つ花序について、より一般性の高いルールの発見を目指す。 なお、期間内での達成は難しくなりつつあるが、ハナアブの飼育系の確立にも引き続き取り組む。
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Causes of Carryover |
10円の残額は、洗剤等の消耗品の購入に充てる予定だった予算が、計算の手違いで残ったことにより生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品の購入に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)