2014 Fiscal Year Research-status Report
植食者による植物の防衛抑制が共存する節足動物群集とその相互作用に及ぼす影響
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26840141
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 園芸学研究科, 助教 (90595571)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 動物-植物間相互作用 / 誘導反応 / 花外蜜 / 国際情報交流 / 間接防衛 / オランダ / 群集 / 捕食者-被食者相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、植食性昆虫であるエンドウヒゲナガアブラムシ(以下エンドウヒゲナガ)が植物(ソラマメ)の間接防衛形質の一つである花外蜜の分泌を抑制すること、そのような抑制によって花外蜜の利用者(アリ)個体数の減少を介して、ソラマメ上の節足動物群集へ及ぼす影響の解明を試みることである。 本年度は、エンドヒゲナガ以外のアブラムシ他種に加え、ナミハダニやハスモンヨトウといった植食者種の食害に対するソラマメの花外蜜分泌についても調べた。これらの中で、花外蜜を未被害株よりも有意に減少させるのは、エンドウヒゲナガであることが確認された。また、実験に用いるソラマメの品種として、仁徳一寸、打越一寸、三連といった品種についても検討した結果、発育速度や花外蜜の分泌量に優れた仁徳一寸を用いることとした。 来年度以降に予定している野外試験のために、実験圃場に生息しているアリ種を調査し、クロヤマアリ、トビイロシワアリ、トビイロケアリを確認した。そこで、トビイロケアリを用い、植食者被害ソラマメに対する選択実験を行った。トビイロケアリのワーカー100個体を放したプラスチックケース(30x20x20cm)内にエンドウヒゲナガ被害株、マメクロアブラムシ被害株、未被害株の3種を設置し、1時間ごとに5時間後まで植物上のアリ個体数を計測した。結果、エンドウヒゲナガ株を訪れるアリが減少すること、また植物上にアブラムシ捕食者ナミテントウ幼虫を放した場合には他の株よりもテントウ幼虫がアリに排除されにくいことが分かった。これらのことから、エンドウヒゲナガはソラマメの花外蜜分泌を抑制し、それを利用するアリの個体数および、アブラムシ捕食者の定着に影響を及ぼすことが示された。これらの成果は、第59回日本応用動物昆虫学会でポスター発表によって公表し、現在国際学術誌に投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した本年度の研究内容は、主に以下の3点である。 (1)予備実験で得られていた結果通り、実際にエンドウヒゲナガアブラムシの食害によってソラマメの花外蜜分泌が抑制されるかを、ソラマメの品種に注目して検証する、(2)ソラマメの花外蜜に変化が現れた場合、それを利用するアリ個体数に違いが現れるか、(3)アリの個体数を介して他の生物種へ花外蜜の減少効果が波及するか、である。本年度、いずれの内容についても実験を行っており、いずれにおいても本研究で検証を試みている仮説を支持するような結果が得られている。 植物の防衛形質を植食者が抑制する例は世界でも2例ほどしか知られておらず、また花外蜜に限定すると、本研究が世界で初めての報告である。植物のもつ花外蜜はアリなどの捕食性天敵を誘引し、それらによって植物上の節足動物群集が排除されることが多くの先行研究によって明らかとなっている。それ故、本年度示した結果は今後、研究を展開していく上で、これまで報告されていたのとは逆の、他の節足動物の共存を促すことが予想され、生物多様性の維持・促進機構の解明にもつながる興味深いものである。 よって、本年度の研究実績は、当初の計画通りおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度行った実験結果では、エンドウヒゲナガの食害はソラマメの花外蜜分泌を抑制したものの、マメクロアブラムシの食害は先行研究で報告されているような増加は確認されなかった。今後研究を進めていく上で、植物の抵抗性への影響についても調査し、野外試験において、エンドウヒゲナガ被害株と未被害株の2種に絞って野外試験を行うかどうかを判断する予定である。また、上述の植物の抵抗性にも関連して、各アブラムシ種の他種および同種被害ソラマメに対する選好性についても検討していく予定である。 交付申請書に記載したように、来年度は植食者による植物の防衛抑制を明確に示したオランダ・アムステルダム大学のArne Janssen博士の研究室を訪問し、これまでの結果の問題点、今後の展開についても議論を行い、研究遂行のための改善に役立てる予定である。
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