2016 Fiscal Year Research-status Report
農耕する川虫-生態系エンジニアによる微生物群集への影響-
Project/Area Number |
26840146
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡野 淳一 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (20547327)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 微生物群集 / 多様性 / 生態系エンジニア / ニッチ構築 / 種内変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水生昆虫であるトビケラがつくる巣に、微生物を栽培する機能があること(農耕仮説)を実証し、巣によって微生物の群集動態にどのような影響があるかを調べる。このことによって、トビケラの生態系エンジニアとしての新たな役割を明らかにする。 これまでトビケラの生態系エンジニアとしての研究は数多くなされてきたが、種内の変異は見過ごされてきた。しかし、古典的な生活史研究や、行動生態学的研究からは、多くの動物において、巣作りの種内変異があることが示されている。もし、生態系エンジニア効果を持つトビケラ幼虫においても個体間や地域間で巣形質の変異があれば、異なる生態系エンジニア効果を通じて、同所的な生物の群集構造への波及効果も異なるかもしれない。近年、近年、種内の形質変異や多型が、群集や環境に無視できない影響をもたらすことが、さまざまな生態系において報告されている(Bolnick et al. 2011. TREE, 26:183-192.)。また、似た生態系機能を持つ近縁種や種内変異であっても、種多様性や種内形質の多様性が高いほど、生態系機能も高まることが示されている(Cardinale B. 2011. Nature, 472:86-89)。 このような背景から、巣形質の変異を調べることで、群集構造と多様性を創出する新たなメカニズムが明らかになると期待される。特に、生態系エンジニア力の種内多様性が群集の多様性創出にどのような貢献をしているかを検証する絶好の機会を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
28年度は、トビケラの巣の種内変異について調査を行った。その結果、巣の形質には種内変異があり、さらには変異の幅にも地域的な違いがあることが分かった。室内飼育実験の結果、トビケラ幼虫間の共食いの直接的・間接的影響のバランスによって変異の幅が規定されることが分かった。このように、トビケラの巣の形質変異には、当初予測していた以上の複雑な背景があることが明らかになってきた。この発見は、これまで知られてなかった種内多型の維持メカニズムを示している可能性があり、大きな成果である。しかし一方で、生態系エンジニアとしての役割を評価するには、個体間、地域間の複雑な変異を考慮しなければならず、期間内での解析達成ができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
巣の形質には種内変異があることが分かり、生態系エンジニアの種内多様性が、同所的な生物の群集構造や多様性に及ぼす影響を評価する機会を得ることができた。そこで今後はまず、巣の形質を「生態系エンジニアとしての改変力」として個体ごとに評価しなおし、個体ごとの微生物群集への波及効果を検証する。その上で、改変力が異なる個体が同所している場合、改変力が同じ個体が同所している場合で、群集にどのような変化の違いが生じるかを評価する。 微生物群集の解析には、ライブラリークローニングやシングル・セルによるプライマリー作成を行う。
|
Causes of Carryover |
28年度は育児のため解析が全く行えなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度はトビケラの個体群動態、コホートの追跡のために、定期的な野外調査を行うための調査費として研究費を使用する。また微生物群集解析のために、遺伝子解析用の試薬や機器使用に研究費を使用する。
|
Research Products
(3 results)