2014 Fiscal Year Research-status Report
環境核酸の分析による生物量推定法の高精度化および代謝量推定への応用に向けた新展開
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26840152
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
山中 裕樹 龍谷大学, 理工学部, 講師 (60455227)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境核酸 / 遺伝子 / 環境評価 / 水棲生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、生物が環境中へと放出している遺伝物質が水棲生物の分布や生物量の推定に利用されるようになった。ただ、その放出速度に対する環境条件の影響や水中での存在時間等については依然不明な点が多く、水産業や野外での生態学研究への応用においてはこれらの不確定要素が障壁となりつつある。本研究では生物の特性や外部環境要因が水中の遺伝物質濃度へいかに影響するのかを示し、推定の高精度化を図る。また、環境中に放出された 遺伝物質を手掛かりとして生物の状態を推定する手法を開発することが目的である。 これまで、ゼブラフィッシュを含むいくつかの種を用いて遺伝物質の放出速度や定量に関わる研究を進めた。遺伝物質放出速度の個体サイズ依存性は遺伝物質の定量による生物量推定の精度を向上させるために明らかにすべき事項であったが、これ以前の問題として、水中を漂う遺伝物質の測定精度自体を向上させられる余地のあることが判明した。このため、試料水の濾過方法についての検討を行った。結果、複数の目合いサイズのフィルターで濾過を行うことで定量精度が向上する傾向が示され、継続して濾過プロセスの検討を行っている。水中の遺伝物質の分析による生物の状態の把握については全く既存の研究例が無く、濾過後のフィルターからの遺伝物質抽出方法についての検討を本研究で行い、有効な抽出試薬の検討や選択すべき抽出キットの選定を終えた。また、状態を推定可能とするための候補遺伝子を関連する既往研究のレヴューによって選定し、コイを用いてこの遺伝子領域由来の遺伝物質が水中に放出されていること、そして今回決定した濾過および抽出プロトコルで回収できることを水槽実験及び野外で採取した水試料を用いて確認した。また、本研究で主眼を置いている対象生物であるゼブラフィッシュについて、同じ遺伝子領域を種特異的に増幅できる系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究はおおむね順調に進んでいる。環境DNA放出速度の温度依存性については平成26年度に実施する予定であったが、環境DNAの水試料からの回収ステップでの精度に向上の余地があることが明らかとなったため、濾過とDNA抽出についての検討を優先して実施した。しかし、温度依存性についての実験材料、実験設備については概ね準備を終えており、遅れを十分取り戻せる見込みである。また、この濾過プロセスに関する検討事項は他の環境DNA研究すべてに関連する基礎事項であるので来年度も継続する。 環境RNAについては計画よりも部分的には早く進展している。計画通りに対象種であるゼブラフィッシュの研究対象遺伝子を増幅する特異的プライマーを開発しており、今後は代謝量と発現量との対応関係についての分析を進める。当初の計画には無かったがコイを対象として野外環境水からの環境RNAの回収・定量を予備的に実施したところ成功したため、実験室内での基礎研究にとどまらず、野外研究への応用が想定よりも早く進む可能性が出てきた。今後は計画通りの室内研究と並行して野外での応用研究への展開も積極的に模索する。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA定量の精度の向上は環境DNAによる生物量の推定精度の向上に直結する課題であり、本研究を実施する中でその重要性が明らかになったものである。今後もまずこの問題を解決するために水試料の濾過方法及びDNA抽出方法について検討を進める。一方で、計画にあったDNAの放出速度の温度依存性についての確認を行う。これについては飼育設備が既に整い、ゼブラフィッシュの種特異的プライマーも完成していることから問題なく進む予定である。また、計画では体サイズの放出速度に与える影響も明らかにする予定であったが、別の共同研究において明らかにすることができた。本研究ではこの点を更に深め、体サイズのみではなく発生段階(成長ステージ)に応じた放出速度の変化についても分析を試みる。温度依存性についてはこれまでに1例しか報告がないため、できるだけ早意段階で論文として結果を公表する予定である。 RNAは水試料から回収、抽出し、逆転写の後にリアルタイムPCRで定量するプロセスをコイを用いた予備研究で昨年度確立することができた。今後は新たに開発したゼブラフィッシュ用の種特異的プライマーを用いて室内での発現量解析に移り、今回選定した遺伝子の発現量が代謝量(運動量)に応じて変化するかを確認する。すでに水槽実験用の設備は整っていることから問題なく進む予定である。また、計画には無かったが野外への応用研究にも並行して取り組む予定である。すでに予備実験では野外環境水からRNAの回収・定量に成功していることから、計画していたよりも早い野外への進展が進むと期待している。これらの環境RNAに関わる報告はこれまで一切ないため、適時論文として公表する予定である。
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Causes of Carryover |
支出計画に合わせて研究費を使用したが、消費税等によって生じる予算計画との誤差として134円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は134円であり、翌年度分として請求した助成金の使用計画は当初通りで変更はない。
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