2014 Fiscal Year Research-status Report
古人骨における歯石内細菌群のメタゲノム解析 ―古人類の口腔衛生環境復元手法開発―
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26840158
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Research Institution | Asahi University |
Principal Investigator |
矢野 航 朝日大学, 歯学部, 助教 (80600113)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 次世代アンプリコンシーケンス解析 / 古代人骨 / 口腔細菌叢 / メタゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代人の病原菌の存在場所として歯石に注目し、古人骨歯石から病原菌の存在を検出する方法を探索した。予備調査として、歯石化石に残存する微生物断片から古代人類集団の生物学的情報を復元する新しい手法を試みた。 次世代シーケンサーによる現代人(n=1)、縄文(n=1)、縄文人骨に付着する土壌サンプル(n=1)の口腔細菌群集分析を予察的に行った。現代人骨は朝日大学歯学部所蔵、縄文人骨および付着土壌サンプルは京都大学自然人類学研究室の中務真人教授の協力で、同研究室所蔵の標本を用いた。本方法では、歯石および土壌サンプルからDNA抽出作業を行い、ここから細菌群全てのゲノム情報の復元を試みた。メタゲノム解析と呼ばれるある場所に含まれる細菌叢を生態系として復元する方法を用いた。各種に固有のプライマーを用いるのではなく、細菌群に共通するユニバーサルプライマーを用いることで、含まれる全種の復元およびその存在比を算出することができる。我々は歯石および土壌サンプルそれぞれからのDNA抽出に成功し、それぞれの口腔細菌叢データを取得した。その結果、縄文人骨に含まれていた口腔細菌群は土壌サンプルのものとは構成比が大きくことなり、現代人骨のものと類似していた。また縄文歯石および現代人歯石からはPrevotella属を始めとする口腔に固有の細菌が検出されたことから、古代人骨の歯石に保存されてた口腔細菌断片から口腔内細菌群が復元できることが分かった。 この結果は第68回日本人類学会におけるシンポジウム(歯の人類学分科会 平成26年度シンポジウム「歯の付着物をめぐって」)にて発表した。その要旨は和文誌Anthropological Science (Japanese Series)の123巻第1号に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、石灰化、タフォノミー、コンタミネーションで断片化し撹乱された古代人骨歯石中の口腔内細菌群の遺伝学的情報をどのように回復し口腔環境を復元できるかを探索し、そのための頑強な復元方法を開発することであった。 本研究を推進するに当たっては、①撹乱され劣化した古代人骨歯石内口腔内細菌群の遺伝学的情報が回復可能性の検証 ②回復できる場合、劣化を定量化すること ③劣化の定量化に基き、古代人骨歯石から次世代シーケンサーを用いた頑強な口腔細菌叢の復元方法を確立し、これを英文雑誌に掲載することを到達目標としている。2014年度は予備調査として古人骨歯石から病原菌の存在を検出する方法を探索し、次世代シーケンサーによるメタゲノム解析により、縄文人骨歯石に残存する微生物断片から古代人類集団の口腔に固有に生息細菌群を復元できることを示し、同手法の有効性を確認することができたため。またその結果を第68回日本人類学会におけるシンポジウムにて発表し、同分野の専門家から分析における有用なコメントを受けることできた。このため上記の到達目標の①を達成できたと判断した。但し、本年度の上記到達目標と考える②の達成に2014年度に複数サンプル数での解析を想定していたが間に合わなかったため、概ね進展の区分と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、劣化した古代人骨歯石中の口腔内細菌群の遺伝学的情報を回復し口腔環境を復元できる頑強な方法を開発することである。 2014年度には、目標としていた縄文人骨から採取した歯石からメタゲノム解析を用いることで古代人骨歯石内口腔内細菌群の遺伝学的情報が回復できることを示すことができたため、2015年度は同手法による解析のサンプル数を増やし、古代人骨歯石における遺伝情報の劣化の定量化を行う。死後塩基置換は一定の確率で生じることが知られているため、縄文人試料の断片化および塩基置換率を検証する。またRNAは断片化も起こることが知られている。歯石内のゲノム断片の長さを計測し、その短縮率を劣化過程として解析する。2014年度に引続き京都大学理学研究科自然人類学研究室所蔵の縄文人骨から10標本程の歯石試料の採取を行い、京都大学霊長類研究所所蔵次世代シーケンサーによる解析を行う予定である。その結果は11月に行われる第69回日本人類学会において発表する予定である。
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Causes of Carryover |
物品費として計上した次世代アンプリコンシーケンス解析費用が想定を超えて高額となり、2014年度支払請求額\50,000内での支払が困難であることが見積の段階で明らかとなったため、前倒し支払請求\400,000を行った。しかし支払時期が年度末となったため、2015年度4月に発注とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度使用額は本来2014年度に支払する予定だったものであり2015年4月に支払う予定のため、2015年度の物品費として使用する。
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