2014 Fiscal Year Research-status Report
有機物施用に伴うプライミング効果を考慮した土壌炭素動態のモデル化
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26850039
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
早川 智恵 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任研究員 (10725526)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プライミング効果 / 火山灰土壌 / 埋没腐植 / 炭素貯留 / セルロース / グルコース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、土壌炭素動態モデルに難分解性有機物の分解プロセス(『プライミング効果』)を組み込むことを目的としている。北海道標茶町の森林・農耕地の黒ぼく土を事例とし、プライミング効果を引き起こす土壌微生物や環境条件を解明する。平成26年度はまず、京都大学標茶演習林および北海道立総合研究機構根釧農業試験場において現地調査を行い、表層・埋没腐植層の土壌断面 (約1 m)を試抗し、火山灰層の同定、土壌の理化学性を調査した。断面調査を行った4地点(森林土壌3点、採草地土壌1点)の表層土壌は全て同じ年代の火山灰 (Me-a)を母材とするが、その全炭素濃度は土地利用によって異なり(7.6-13.1%)、森林より採草地で低かった。また、採草地の作土層(0 - 40 cm)の炭素貯留量 (19.7 kg C m-2)は隣接する森林の表層・埋没腐植層の炭素貯留量 (21.3 kg C m-2)より低く、農地転換により土壌有機物の減耗が進行していることが示唆された。また、土壌中の微生物バイオマス炭素・窒素量は森林より採草地で低く、無機態窒素濃度、細根バイオマス、全炭素濃度と比例していた。脂肪酸の組成から推定した真菌比(真菌/細菌比)は表層に比べて埋没腐植層でより高い傾向にあった。 表層・埋没腐植層の微生物による有機物の無機化ポテンシャルを明らかにするため、14C標識グルコース(セルロースのモノマー)の無機化速度の濃度依存性を室内培養試験により調べた。表層・埋没腐植層における微生物のグルコース無機化ポテンシャル(最大無機化速度, VMAX)は表層で著しく高く、微生物バイオマスと有意な相関を示した。埋没腐植層におけるグルコース無機化ポテンシャルは表層より低いものの、他の土壌種の表層に匹敵する高さを示した。このことから、埋没腐植層においても、易分解性有機物の添加により微生物の無機化速度が増大する(プライミング効果が引き起こされる)ことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本提案課題では、北海道、標茶町の森林・農耕地の黒ぼく土において、難分解性有機物の分解速度に及ぼす『プライミング効果』を実験室および現場において検証し、プライミング効果を引き起こす微生物や環境条件を解明することで、プライミング効果を組み込んだ炭素動態モデルを構築することを目的としている。平成26年度の実施計画では、現地土壌調査・サンプリング、プライミング効果の培養試験、炭素貯留量の現場観測を予定し、おおむね遂行することができた。 北海道標茶区演習林および根釧農業試験場における現地土壌調査・サンプリングは平成26年7月に行い、土壌の理化学性について測定した。表層・埋没腐植層における微生物の有機物の無機化ポテンシャルを測定し、埋没腐植層においても易分解性有機物の添加により微生物の無機化速度が増大する(プライミング効果が引き起こされる)ことを明らかにした。採草地では元の森林に比べて有機物の減耗が進行し、炭素貯留量が減少していることを示した。尚、表層・埋没愚職層の14C年代については現在分析を進めている。また、次年度(平成27年度)に予定していた脂肪酸による微生物の群集構造の分析を一部前倒しし、表層に比べて埋没腐植層で真菌比が高い傾向にあることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は主に、プライミング効果の培養試験および微生物の群集構造の解析(平成26年度より続行)、プライミング効果の現場観測による定量評価(平成26年より続行)、プライミング効果に対する土壌窒素濃度の影響解明に関わる実験を予定している。
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