2014 Fiscal Year Research-status Report
脱皮不全系統のカイコを用いたエクジソン中間体の探索
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26850070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊賀 正年 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特任研究員 (70721497)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カイコ / 変異系統 / エクジソン / ステロイドホルモン / 脱皮 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はエクジソン生合成経路において不明であるブラックボックスの解明に向け、Nm-g変異系統から見出した2種の未知物質の精製とNm-g以外の脱皮不全系統のカイコ幼虫に含まれるステロイド類の分析を行った。また、カイコ培養前胸腺を用いた基質変換実験の実施に向け、条件検討を行った。 Nm-g変異系統を用いた解析については、サンプリングを終えた約1300頭分のNm-g変異ホモ個体の体液から未知物質の精製を行った。有機溶媒による液液分配ならびに高速液体クロマトグラフ(LC)による精製を行い、LC-質量分析計(LC-MS)で2種の未知物質(X・Y)を含む画分の同定および定量を行った。結果、同じ質量数を持つ既知エクジソン中間体換算で約16μgの未知物質Xと17μgの未知物質Yの精製に成功した。また、未知物質の構造解析に向け、合成品の類縁化合物と既知のエクジソン中間体のNMRスペクトル情報を取得した。 Nm-g以外の脱皮不全系統の飼育ならびに飼育条件の検討を行った。変異個体では脱皮の遅延や脱皮不全が観察され、エクジソンを含むエサを与えることで脱皮を誘導出来ることがわかった。しかし、変異個体の体液に含まれるステロイド類をLC-MSで分析すると変異個体に特有のステロイド類は検出されず、20-ヒドロキシエクジソンが検出された。したがって、今回検討を行った系統では脱皮不全の原因がエクジソン生合成経路以外にあることが示唆された。 ステロイド類の分析に加えて、Nm-g基質候補化合物を合成後に実施予定のカイコ培養前胸腺を用いた基質変換の条件検討を行った。基質変換効率の向上を目指し、エクジソン生合成調節に関わる因子・受容体の探索を進めた結果、エクジソン生合成調節には関与していなかったがGタンパク質共役型受容体のBNGR-B1が利尿ホルモン31の受容体であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Nm-g変異系統のカイコに蓄積する未知物質XおよびYの精製を終え、約16μgの未知物質Xおよび約17μgの未知物質Yを得ることに成功した。また、合成品の類縁化合物のNMRスペクトルの取得を終え、類縁化合物から得られた情報と未知物質のNMRスペクトルを比較検討することで、未知物質の大部分のピークの帰属が可能な状況となった。したがって、NMRによる未知物質の構造解析に向けた準備が整った。 脱皮不全がエクジソン投与によりレスキュー出来ることが示唆されているNm-g変異系統以外の2つの脱皮不全系統について、体内に蓄積しているステロイド類の分析を行った。人工飼料での飼育適性を検討した結果、市販されている人工飼料単独では発育のばらつきが大きく飼育が困難であったが、桑葉破砕物を添加することで改善出来た。また、変異個体に対してエクジソンを与えると脱皮が誘導されることが確認出来た。しかし、エクジソンを与えなかった個体でも脱皮時期の遅延のみで脱皮不全とならない個体が多数存在した。そこで、それらの個体の飼育を継続し、終齢幼虫の体液に含まれるステロイド類の分析を行った。結果、未知ステロイドは検出されず、活性型エクジソンである20-ヒドロキシエクジソンが検出されたため、脱皮不全の原因がエクジソン生合成経路以外にあることが示唆された。 Nm-g基質候補化合物を合成後に実施予定のカイコ培養前胸腺を用いた基質変換系の変換効率の向上を目指し、エクジソン生合成調節に関わる因子・受容体の探索を進めた。結果、エクジソン生合成調節には関与していなかったが、Gタンパク質共役型受容体のBNGR-B1が利尿ホルモン31の受容体であることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、Nm-g変異系統のカイコ体液から精製を終えた未知物質XおよびYを用いてNMRによる構造解析を行う。また、Nm-g変異系統カイコの前胸腺におけるエクジソン生合成酵素の遺伝子発現解析を行い、未知物質の生合成過程における既知エクジソン生合成酵素の関与を検討する。さらに、生合成酵素の遺伝子発現状況とNMRで得られた未知物質の構造情報を合わせて考えることで、Nm-gが担う変換反応を予測する。また、カイコ培養前胸腺を用いてこれまでに得た類縁化合物の基質変換実験を行い、代謝の有無ならびに代謝産物の構造予測を行うことで、ブラックボックス内の反応経路や反応順序について検討する。これらの情報を統合することで未知物質XおよびYの構造を推定し、その生合成過程を遡ることでNm-g基質の候補化合物を絞り込む。内在性の物質と区別するため、安定同位体ラベルされたNm-g基質候補化合物を合成し、カイコ培養前胸腺を用いて基質変換実験を行う事で候補化合物がNm-gの基質であるかを検討する。 Nm-g変異系統以外の脱皮不全系統のカイコに蓄積しているステロイド類の分析では、変異個体に特有のステロイド類は検出されず、20-ヒドロキシエクジソンが検出された。すなわち、これらの系統における脱皮不全・遅延の原因遺伝子はエクジソン生合成経路には関係しないことが示唆される。そこで予定を変更し、ブラックボックス内の変換反応に関わる事が示唆されるSpookのノックアウト個体を作製し、体内に蓄積しているステロイド類の分析を行う。
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Causes of Carryover |
Nm-g変異系統以外の脱皮不全系統のカイコに蓄積しているステロイド類の分析を行った結果、これらの系統における脱皮不全・遅延の原因がエクジソン生合成経路以外にあることが示唆された。それに伴い、本年度実施予定であったこれらの変異系統の大量飼育に向けた準備を中止したため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、当初の予定を変更して実施するブラックボックス内の変換反応に関わる事が示唆されるSpookのノックアウト個体の作製、ならびにSpookのノックアウト個体に蓄積しているステロイド類の分析に向けたエクジソンレスキュー実験やノックアウト個体の系統維持に使用する。
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Research Products
(2 results)