2015 Fiscal Year Research-status Report
腐朽が生じた木質構造釘接合部のせん断抵抗メカニズムの解明
Project/Area Number |
26850107
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
澤田 圭 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (10433145)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 釘接合 / せん断性能 / 腐朽 / 釘腐食 / 繰り返し加力 / 材厚 / 加力方向 |
Outline of Annual Research Achievements |
木造住宅の中で高い構造性能を要求される箇所では、釘接合はせん断型で抵抗するように使われる。釘接合のせん断性能は、主材からの釘引抜き性能とめり込み性能が大きく寄与し,釘引抜き性能は主材厚の影響を受ける。そこで、異なる主材への打ち込み長さおよび側材厚を持つ釘接合に対して強制腐朽処理を施し、一面せん断繰り返し試験を行った。主材および側材にはトドマツ製材を用い、主材と側材はCN65釘で釘接合した。腐朽菌には褐色腐朽菌オオウズラタケを用いて、腐朽処理は釘接合部分に施した。木材の腐朽度は質量減少率とピロディンを用いたピン貫入値によって調べ、鉄釘の腐食度は釘径変化量によって調べた。 釘接合部のせん断抵抗は部材厚の他に加力方向によっても異なる。繊維平行方向に加力した場合は木材に部分縦圧縮応力が生じ、繊維直交方向に加力した場合は釘孔周辺に部分横圧縮応力と横引張応力が生じる。腐朽に伴う各抵抗要素の強度変化が釘接合のせん断性能に及ぼす影響を調べるため、繊維平行および直交加力一面せん断試験を行った。また、鉄釘を用いた釘接合が腐朽環境下にあるとき、木材には腐朽が発生して、釘にはサビが生じる。サビの発生は釘引抜き耐力を増加させる。そこで、引抜き耐力の増加が釘接合のせん断性能に与える影響を調べるため、木材のみを腐朽させた後に腐朽材に釘打ちした試験体と、釘打ち後に腐朽させた試験体について一面せん断試験を行った。 釘接合のせん断抵抗メカニズムは変形の増大と共に変化する。木材腐朽によるせん断抵抗メカニズムの変化を材厚別、加力方向別、サビの有無によって明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、木質構造物の釘接合付近に腐朽が生じたときの残存性能の評価を目的としている。この評価を行うため、平成27年度は木材腐朽に伴う単位釘接合せん断性能の変化と釘接合近傍の腐朽度および釘の腐食度との関係を調べることを計画した。木材の腐朽度は質量減少率、ピロディン値から求め、釘腐食度は釘径変化量から求めた。単位釘接合せん断性能は、主材と側材にトドマツ製材を用いCN65釘1本で釘打ちした試験体より得た。試験体に褐色腐朽菌オオウズラタケを接種し、腐朽部を含む試験体に対して一面せん断繰り返し試験を行った。 釘接合のせん断性能は主材への釘打込み長さと側材厚の影響を受ける。そこで、釘打込み長さを釘長の0.3、0.5、0.7倍の3種類に変化させて試験を行い、部材寸法別に釘接合のせん断挙動を整理し、腐朽によるせん断挙動の変化をそれぞれ調べた。木材は異方性材料のため加力方向によって釘接合のせん断抵抗要素は異なる。繊維平行加力に対しては、木材の繊維平行めりこみ応力で抵抗し、繊維直交加力に対しては繊維直交めりこみ応力と横引張応力で抵抗する。そこで、主材と側材共に繊維平行加力を受ける試験体と、主材が繊維直交加力を受け側材が繊維平行加力を受ける試験体について繰り返し加力試験を行った。この試験より、腐朽に伴う加力方向別のせん断抵抗メカニズムおよび破壊メカニズムの変化を調べた。釘の引抜き抵抗の増加は釘接合の終局性能に影響を与える。腐朽環境下に釘接合が曝されると、釘にはサビが生じ、サビの発生は釘の引抜き抵抗を増加させる。そこで、木材に腐朽部があり釘にサビが無い釘接合試験体と、木材に腐朽部があり釘にサビが有る釘接合試験体について繰り返し試験を行い、木材腐朽と釘の腐食が釘接合のせん断挙動に与える影響を調べた。釘一面せん断性能に関する研究は計画通りの内容を実施することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究より釘引抜き性能およびめり込み性能に影響する腐朽と釘の腐食を評価する因子が明らかとなった。平成27年度の研究では、木材腐朽と釘腐食による部材寸法や加力方向が異なる釘接合のせん断挙動に与える影響が明らかとなった。木質構造物では釘を多数本打ちして接合部を構成することがほとんどであるため、平成28年度は多数本打ち釘接合に褐色腐朽菌オオウズラタケを用いて腐朽処理を施す。 平成27年度の研究から、部材厚および加力方向によって腐朽に伴う釘接合せん断性能は変化した。木質構造物の接合部では通常多数本の釘を用いて接合され、多数本打ち釘接合内の各単位釘接合の加力方向は同じ場合と異なる場合がある。平成28年度は、多数本釘接合部の一部または複数部に強制腐朽処理を施し、部分的または全体的な腐朽劣化が釘接合部全体のせん断性能に及ぼす影響について調べる。試験は多数本釘接合部内の各単位釘接合が等しい加力方向を示す引張加力型と、異なる加力方向を示すモーメント型について行い、加力形式別に腐朽の発生に伴う荷重-変形挙動や破壊性状の変化を調べる。 これまでに得られた研究結果より、木材からの釘の引抜き試験および釘を用いた木材のめりこみ試験から得られた腐朽劣化時の性能変化と単位釘接合部のせん断性能の変化を比較し、単位釘接合部のせん断抵抗メカニズムの劣化挙動を整理する。これらの結果と多数本釘接合部の試験結果を比較することで、木質構造物内の釘接合箇所に生じうる性能変化や破壊形態について検討する。
|