2014 Fiscal Year Research-status Report
イネいもち病菌由来多糖分解酵素が誘導する植物細胞壁の力学的強度変化
Project/Area Number |
26850113
|
Research Institution | Iwate Biotechnology Research Center |
Principal Investigator |
高橋 真智子 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 生物資源研究部, 研究専門員 (30633333)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 植物細胞壁 / 多糖類分解酵素 / ヘミセルロース / 力学的強度解析 / キシラナーゼ / キシログルカナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の細胞壁は骨格となるセルロースミクロフィブリルにへミセルロース鎖が水素結合により架橋を形成するβ-グルカンの複合体である。ヘミセルロース鎖の分解(架橋の切断)はセルロースミクロフィブリル間にゆるみ(強度低下)を誘導する。申請者は単子葉植物細胞壁のヘミセルロース鎖を構成する、キシラン、1,3-1,4-β-グルカン及びキシログルカンそれぞれの分解が誘導する植物細胞壁の変化を詳細に解析するために、ヘミセルロース鎖分解酵素(キシラナーゼ、1,3-1,4-β-グルカナーゼ、キシログルカナーゼ)を用いて、ヘミセルロース鎖の分解及び分解による植物細胞壁のゆるみ誘導機構について、力学的解析手法を用いて詳細を解析した。 上記酵素それぞれのリコンビナントタンパク質を調製し、精製した各酵素を用いて単子葉植物であるコムギの子葉鞘の酵素分解を行い、酵素処理した子葉鞘をそれぞれ、細胞壁強度測定装置を用いて植物組織の経時的ひずみを測定した。得られたデータをマックスウェルの粘弾性モデルに従い、研究協力者により開発された植物細胞壁の力学的強度解析のプログラムを用い、細胞壁強度の力学的変化を詳細に解析した。さらに解析プログラムを用いてデータを処理した後、植物組織の弾性率および粘性率を算出した。これにより特定のヘミセルロース鎖分解が及ぼす細胞壁全体の物理的変化を明らかにし、基質特異性の異なるそれぞれの酵素化学的性質と植物細胞壁の強度変化誘導の関連性を詳細に解析した。その結果、キシラン及び1,3-1,4-β-グルカン分解において粘弾性の低下、即ち、コムギ子葉鞘細胞壁の著しい強度低下が認められた。さらに、分解産物をHPLCにて解析した結果、植物細胞壁における1,3-1,4-β-グルカンの新たな構造を提唱する事に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単子葉植物のヘミセルロースを特異的に分解する酵素として、イネいもち病菌由来のキシラナーゼ(MoCel10A)、1,3-1,4-β-グルカナーゼ(MoCel12A)、麹菌由来のキシログルカナーゼ(AoXeg12A)を用いることとした。上記多糖類分解酵素の精製標品を得るために、麹菌や枯草菌を宿主として使用し、酵素活性を有する酵素のリコンビナントタンパク質を作製した。酵素の大量調製も滞りなく進み、十分な精製酵素が得られた。単子葉植物細胞壁のモデル植物としてはコムギの子葉鞘を用い、各精製酵素による酵素分解処理を行い、酵素処理後の子葉鞘は植物細胞壁強度解析プログラムを介し、粘性率及び弾性率を計算した。これによりそれぞれの酵素による植物組織の分解性に伴う細胞壁のゆるみ(強度低下)の誘導機構を詳細に解析した。その結果、キシラン及び1,3-1,4-β-グルカン分解において粘弾性の低下、即ち、コムギ子葉鞘細胞壁の著しい強度低下が認められた。 次に、ヘミセルロース鎖であるキシランや1,3-1,4-β-グルカン、キシログルカンに対する蛍光標識した抗体を用いて、酵素処理前後のコムギ子葉鞘におけるヘミセルロース鎖の局在をそれぞれ蛍光レーザー顕微鏡により観察し、コムギ組織において分解された多糖の局在を明らかにした。これまでの結果から、当初の目的である細胞壁のゆるみを誘導する組織特異的な多糖分解の仕組みを解明することに成功した。植物組織に内在するネイティブな基質(ヘミセルロース)に対し酵素処理を行い、粘弾性を解析し植物細胞壁の強度低下を示した例はなく、新たな細胞壁の構成を示唆した事は学術的にもインパクトが高い成果と言える。さらに、植物の組成の理解と構成に応じた病原菌由来の分解酵素の適用は、今後草本系植物を資源として利用する事などにも応用が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで行ったヘミセルロース分解酵素はイネいもち病菌由来のGlycoside hydrolase family (GH)10に属するキシラナーゼ(MoCel10A)、GH12に属する1,3-1,4-β-グルカナーゼ、Aspergillus oryzae由来のGH12に属するキシログルカナーゼを用いて行った。これらの酵素は各ヘミセルロースに対し、特異的に分解する活性を有する。一方で、キシラン分解に関与する酵素はGH10の他、GH11やGH43に属するものがある。また、1,3-1,4- β-グルカン分解に関与する酵素はGH12の他、幅広くGHファミリーに存在している。そこで、各ヘミセルロースに基質特異性の高い分解酵素を他のGHファミリーよりそれぞれ同定、及びリコンビナントタンパク質を調製し、精製酵素を用いて同様に酵素分解によるコムギ子葉鞘の力学的強度変化を測定する。 次に、イネいもち病菌の感染におけるヘミセルロース分解酵素の意義を明らかにする。これまで力学的強度解析を行い、コムギ子葉鞘細胞壁のゆるみを誘導したヘミセルロース分解酵素の遺伝子をそれぞれ破壊した株(破壊株)および過剰発現させた株(過剰発現株)を作製し、イネへの感染効率を評価する。 感染におけるイネいもち病菌の胞子発芽や付着器形性、菌糸の伸展効率を決定し、感染におけるヘミセルロース分解の影響を明らかにする。また、過剰発現株の作製においては、ヘミセルロース分解酵素にGFPを付与することにより、感染時における酵素の局在が明らかにできる。 このような計画により、植物病原菌の選択的ヘミセルロース分解による感染の効率化に関する基礎的研究をさらに追究する。
|
Causes of Carryover |
1年目の助成金使用は概ね当初の計画通りの使用となった。20万円弱の繰越額が生じたが、当初の予定であった学会出席が1回分無かった為に生じた額であると考える。 物品購入や人件費などに関しては実験計画通りに遂行され、その使用に応じた結果を得ることができた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画としてDNA合成依託費、DNAクローニング、遺伝子発現用ベクターの構築、リコンビナントたんぱく質の調製及び精製たんぱく質の調製、機能解析などの試薬関連の購入に用いる。今年度は人件費への使用は行わない。また、研究を遂行する上で、研究協力者とのディスカッションを行う上での出張旅費などに使用する。さらに、研究を公表する為の校閲費、論文投稿に関する費用や、学会発表旅費などに使用する。
|
Research Products
(1 results)