2014 Fiscal Year Research-status Report
プランクトン・パラドックスに挑む:珪藻類の協働的な有機態窒素・リン利用機構の解明
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26850117
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
山口 晴生 高知大学, 教育研究部自然科学系, 准教授 (10432816)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 珪藻 / 有機態窒素 / 有機態リン / 種協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋の主要基礎生産者である珪藻類は,必須栄養塩 (窒素・リン)を巡り,種間で熾烈な競合を展開している。通常こうした競合の過程では,生態学の一般原則に従い,栄養塩利用能に勝る一部の限られた種が勝ち残り,他種を排除するものと考えられてきた。しかしながら実際の沿岸海水中では,きわめて多くの珪藻が共存を果たしている。この矛盾は半世紀前から「プランクトン・パラドックス」と呼ばれ,海洋生態学の大きな謎の一つとされてきた。研究代表者は,「様々な有機物と複雑に結合した窒素・リン原子を利用するには,複数の珪藻種が協働的に窒素・リンの切り出し(分解)を行う必要がある」という仮説を構築した。この仮説を検証するために,本課題では,複数種の珪藻の有機態窒素・リン分解能とその種間差異を明らかにする。 今年度は,有機態の窒素/リン化合物を分解可能な海産珪藻を探索しようとした。本邦沿岸水中の植物プランクトン群集は,環境水中のリン酸塩が欠乏すると,核酸(DNA・RNA)・リン脂質の分解に不可欠な種々のフォスファターゼを産生することがわかった。プランクトン群集の中で優占した珪藻に焦点をあて,それらの培養株の有機態リン/窒素の利用能を調べたところ,いくつかの珪藻は,核酸は分解できないものの,核酸構成要素ヌクレオチドをリン源としてのみならず窒素源としても利用できることがわかった。一方で,他のいくつかの珪藻は,核酸を分解でき,それによって生ずる当該要素をリン源としては利用できるものの,窒素源としては利用できないこともわかった。これらをあわせると,珪藻種間において有機態リン/窒素の利用能は大きく異なると考えられる。これらの珪藻種が,有機物と複雑に結合した窒素・リン原子を利用するには,複数の珪藻種が協働的に窒素・リンの分解を行う必要があるのではないかと示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的としていた,有機態の窒素/リン化合物を分解可能な海産珪藻の探索に成功し,また,分解・利用能が全く異なる培養株を確立することができた。これらにより本年度の実施予定課題を早期に達成し,次年度の課題達成に向けた重要材料を確保できたことから,本研究課題はおおむね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
珪藻の核酸分解・利用を詳細に解析可能な実験系を構築する。核酸の分解・利用能が異なる珪藻種を共培養し,有機態の窒素・リンの協働利用性をそれらの増殖に基づいて明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度の実施予定課題に取り組んだ結果,早期に目標をおおむね達成することができ,それによって当初計上していた基金に残が生じた。一方で,当初予定していた研究小課題を次年度に余裕をもって達成することを視野に入れ,今年度の基金残額については繰り越す必要があると判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予算は新たな実験器具の購入などに充てる予定である。
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