2014 Fiscal Year Research-status Report
サンマ索餌場としての黒潮-親潮混合域低次生産構造・経年変動機構の理解
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26850119
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
西川 悠 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 特任技術研究員 (10625396)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 耳石解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
西太平洋に広く分布するサンマ(Cololabis saira)は秋季から春季にかけて産卵する。既往の研究から、サンマ仔魚の春季の索餌場となる黒潮フロントと親潮フロントに挟まれた黒潮-親潮混合域(30-40N、150-170E)において、この海域でボックス平均したクロロフィルa濃度と、一年半後の大型サンマ資源量の指標であるCPUEの間に、1998年から2005年にかけて有意な正の相関関係があることが明らかとなっている。一般に仔魚期の成長速度が速いほど生残率が高くなるため、この結果は大型サンマの資源量が春季サンマ索餌場での餌量に依存し、その関係が経年変動することを示す可能性がある。 どこで、どのようなメカニズムに基づいて資源量が決定するのかを知ることができれば、資源量予測の可能性という点でサンマ資源管理方策に重要な示唆を与えることができる。ただし、混合域は亜熱帯・亜寒帯域起源の水塊が混じり合って複雑な海洋構造を呈する海域であり、クロロフィルa濃度分布は中規模スケールの海洋物理構造に大きく影響されることが知られている。つまり、既往の研究で示されたボックス海域全体が等しくサンマ資源量変動にとって重要な海域であるとは限らない。 本研究はサンマ資源量変動に決定的な影響を及ぼす海域を特定し、その生息域での餌環境変動機構を明らかにすることを目的として、サンマ仔魚のサンプル分析、海洋観測データ、および海洋データ同化システムの出力結果を組み合わせた研究を行った。 平成26年度は、これまでに混合域・黒潮続流域で採集したサンプルを分析してサンマ仔魚を同定し、うち約150個体の耳石径および輪紋間隔の計測を行った。さらに衛星クロロフィルa濃度データと海洋モデルの結果を組み合わせ、これらの個体がどのようなクロロフィルa濃度・水温を経験してきたかを推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2008年から2012年の春季に混合域・続流域で行われた仔魚分布調査のサンプルを整理し、各観測点で採集されたサンマ仔魚の体長と個体数を計数した。さらに全調査点に対し、海洋データ同化システムMOVE-MRI.COM-WNPの流速・水温データと衛星によるクロロフィルa濃度分布データを組み合わせた粒子追跡実験を行った。サンマ仔魚サンプルの一部に対して耳石分析を行い、分析が完了した150個体の体長・日齢と水温・クロロフィルa濃度の関係を明らかにした。春季の混合域・続流域における物理・低次生産環境、およびサンマ仔魚成長履歴データを蓄積し、分析が順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引き続きサンマ仔魚サンプルの耳石分析を行い、残りのサンプルの体長・日齢データを調べる。全サンプルの成長履歴データから計算した成長速度と、前年度に行った粒子追跡実験の結果を組み合わせ、成長速度が水温・クロロフィルa濃度の変化に対してどのように応答するかを明らかにする。この結果と、海洋観測データおよび高解像度の海洋データ同化システムから調べた混合域の水温・クロロフィルa濃度の変動特性を照らし合わせ、混合域をフロント構造や渦など特徴的な海洋構造に分割し、どのような場所でどれほどサンマ仔魚の成長速度にばらつきが生じるかを推定する。 また平成27年度は、混合域の基礎生産経年変動機構の解析に着手する。まず混合域では栄養塩濃度データが十分にないという問題を解決するため、栄養塩濃度と水温・塩分の観測データを収集し、混合域における栄養塩濃度と親潮-黒潮混合比の関係を調べ、混合比が栄養塩濃度の代替として使用可能かを検証する。この結果を元に、海洋データ同化システムMOVE-MRI.COM-WNPの流速・水温・塩分データから混合域において栄養塩がどこで・どの程度取り込まれるかを0.1度スケールで調べ、基礎生産経年変動に対する栄養塩取り込み量変動の影響、および栄養塩取り込み量が経年変動する原因を明らかにして、混合域の基礎生産経年変動機構の解明につなげる。
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Causes of Carryover |
平成26年度中にサンマ仔魚の耳石を600個体分析する予定であったが、サンプルの保存状態が悪く、耳石を研磨する必要が生じたことから耳石の分析に想定以上の時間がかかり、予定していた全個体の分析が終了しなかった。そのためサンプルの分析を行うための費用が未使用額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度中に完了できなかったサンマ仔魚サンプルの耳石分析に使用する。また、得られた成果を学会で発表するための旅費、および国際誌に投稿するために使用する。
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