2014 Fiscal Year Research-status Report
疾病発症を担う分子経路を標的とした魚病防除法の開発-過剰な免疫反応を抑える
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26850122
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
矢澤 良輔 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (70625863)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 抗病性 / サバ養殖 / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
サバ類は、我が国の重要な水産資源であり、最近では養殖対象魚としても注目されている。しかし、サバ養殖では高水温期において細菌感染症が多発し、斃死率が上昇することが大きな問題となる。我々は、マサバでは斃死率の高い高水温期において、近縁種であるゴマサバの斃死率がマサバの斃死率と比べ低くなることを見出しており、この様な表現型の差を生み出す分子基盤を、近縁種間の遺伝子発現パターンの差異を指標に解析することは、ミュータントの作出等が困難な海産魚において、重要なアプローチとなる。そこで、本研究では、次世代シークエンサーを用いた大規模なトランスクリプトーム解析を実施する。平成26年度は、低水温および高水温飼育の2試験区を設定し、それぞれマサバ、ゴマサバおよびゴマサバxマサバ雑種を同一水槽内で飼育する、飼育試験を実施し、4ヶ月齢における各種サバの死亡率を調査した。その結果、20℃で飼育した低水温区でのマサバ、ゴマサバおよびゴマサバxマサバ雑種の死亡率は、それぞれ76.9%、87.5%、100%であったのに対し、水温25℃の高水温区では44%、100%、100%であった。このことからあらためてゴマサバが高水温期における生残性が高いことが示され、さらに雑種もゴマサバ同様に生存することが明らかとなった。また、本飼育試験の供試魚をサンプルを用いて、ゴマサバ、マサバの表皮で発現する転写産物のde novo assemblyを行った。各魚種あたり3個体を用いて、魚種あたり160Mリードを用いたde novo assemblyの結果、275,714のコンティグが得られ、サバ類のシークエンス解析の基盤として利用が可能となった。さらに、雑種を含めた3種の各水温における表皮サンプルのRNA-seqを行い、両種サバのde novo assemblyデータを基にトランスクリプトーム解析を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における最重要事項は、各魚種を同時に用いる飼育試験であるが、平成26年度中に飼育試験を実施し、順調にサンプリングすることができた。さらに、非モデル動物であるサバでは、ゲノムあるいは転写産物の塩基配列情報の蓄積が乏しく、網羅的な遺伝子発現解析が困難であった。本研究において実施した、ゴマサバおよびマサバ各魚種あたり160Mリードを用いたde novo assemblyの結果、275,714のコンティグが得られ、サバ類のシークエンス解析の基盤として利用が可能となった。このような情報を用いて、現在網羅的な遺伝子発現パターンの解析を実施中である。さらに、平成26年度の飼育試験では、ゴマサバxマサバの作出に成功し、マサバおよびゴマサバと同一の飼育環境下で飼育試験を実施した。飼育試験の結果、この雑種も、ゴマサバ同様に高水温に対し、抵抗性を示した。このような雑種で示された高水温への耐性を規定する分子基盤を、ゴマサバに見られる抵抗性の分子基盤と比較することは興味深く、本研究に新しい視点を加えるうえで重要な情報となることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に実施した飼育試験に基づく、網羅的な遺伝子発現解析の結果をもとに、モデル生物のパスウェイマップ等の情報を利用し、高水温環境下での斃死を増加させる要因となるシグナル伝達経路の同定を試みる。本研究において、マサバ、ゴマサバの2種間における抗病性の差を規定するシグナル伝達経路が特定できれば、そのシグナル伝達経路を特異的に阻害あるいは亢進する化合物により、当該シグナル伝達経路を制御可能となることが期待される。すなわち、高水温期のゴマサバでみられる抗病性を担う分子機構を、マサバ魚体内で人為的に再現することが最終的な目的となる。この方法が確立されれば、シグナル伝達経路の阻害あるいは亢進剤の投与によりマサバが高水温に強くなり、斃死率が低下することが期待される。 さらに、平成26年度に実施することができなかった、高水温期の斃死に対する給餌制限の影響を見る飼育試験を実施する。この飼育試験により得られるサンプルを用いて、トランスクリプトーム解析を実施することで、魚種、水温、給餌条件といった高水温期の斃死率に関わる因子を複合的に理解可能になることが期待される。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンサーを用いたRNA-seqについて、他大学の共同利用による受託解析を依頼しているが、サンプル調整の遅れと先方の受け入れ状況により、一部の解析を平成26年度中に実勢できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に実施できなかった解析を順次、実施する。
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Research Products
(1 results)