2014 Fiscal Year Research-status Report
マガキから見出された細菌特有の適合物質エクトインの蓄積機構と生理的意義の解明
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26850134
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
細井 公富 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 講師 (70410967)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エクトイン / マガキ / 塩分適応 / 軟体類 |
Outline of Annual Research Achievements |
マガキ組織中のエクトイン、ヒドロキシエクトインを高精度で定量的に測定するため、LC/ESI-MS/MSによる測定を行った。マガキの全ての軟体部組織由来の抽出試料を分析した結果、エクトイン、ヒドロキシエクトインとも、標準物質と同様の保持時間に、相当するマススペクトルが確認されたことから、マガキ組織における両物質の蓄積が示唆された。全軟体部組織の平均蓄積量は、エクトインが111.3 nmol/g、ヒドロキシエクトインは100.1 nmol/gであった。植物培養細胞における既報論文では、70nmol/g以上のエクトインが細胞内に存在すると濃度依存的に塩分ストレス耐性が増大することが報告されており、マガキにおいてもこれらの物質が、塩分ストレスに対して生理的に有為な働きを担う可能性が示唆された。 次に、外套膜、肝膵臓、閉殻筋、生殖腺、エラの5種類の組織におけるエクトインおよびヒドロキシエクトインの分布を調べた結果、全ての組織においてエクトインおよびヒドロキシエクトインが検出され、その合計濃度は、432.8 nmol/g(肝膵臓)から103.5 nmol/g(エラ)の範囲であった。筋肉組織を含む様々な器官に両物質が蓄積していることから、マガキ組織内にエクトインを含有する細菌が存在するのではなく、何らかの機構でマガキ自身が蓄積していることが推察された。 また、マガキから抽出したcDNAから細菌のエクトイン合成酵素群のcDNAクローニングを試みたが、現在までに遺伝子の同定には至っていない。組織分布の結果からも、マガキ組織のエクトイン・ヒドロキシエクトインは細菌由来である可能性は低く、生合成経路も新規である可能性も考えられた。さらに、マガキ以外の二枚貝・腹足類からもエクトイン・ヒドロキシエクトインが検出されたことから、これらの物質は、広く貝類が蓄積し利用していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた既存のHPLCによるエクトイン定量法がマガキ抽出物には適応困難であったため、質量分析による定量法を確立した。また、マガキ以外の貝類からのエクトインの検出は、当初の計画にはない新たな展開であった。エクトイン蓄積の塩分ストレス応答性の解析は次年度に実施することとなったが、全般的には順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
エクトイン蓄積の塩分ストレス応答性を検討するとともに、当初の計画に従い、マガキにおけるエクトイン生合成についての解析をすすめる。しかし、細菌での既知経路とは異なる生合成経路を有する可能性が高まったことから、実施する実験を若干変更し、エクトインをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーと、質量分析を組み合わせたタンパク質同定を行い、生合成酵素を含めたエクトインに親和性のあるタンパク質の同定を試みる。 また、エクトインが細菌由来である可能性も否定されていないため、抗生物質による無菌化によるエクトインの消長もさらに検討をすすめる。さらに、他の貝類からエクトインが検出されたことから、各種水産生物におけるエクトイン蓄積の分布についても、解析を進める。LC-ESI/MS/MSによる分析法を確立しているため、効率的な解析が可能であると考えている。
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Causes of Carryover |
エクトインの定量分析法が当初計画から変更になり、カラムや溶離液等の消耗品について、既存の物を活用できたため、支出が小さくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究でマガキ以外の水産生物におけるエクトイン蓄積が明らかとなったため、今後は、様々な水産生物の組織について広く分析を進める必要が生じた。次年度使用額は、そのための分析用の消耗品費に使用する。
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