2014 Fiscal Year Research-status Report
セキショクヤケイの自然史から家畜化に至るまで~分子で探るニワトリの歴史~
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26850212
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
佐々木 剛 東京農業大学, 農学部, 教授 (00581844)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 進化生物学 / 分子系統解析 / 家畜化 / ミトコンドリアDNA / セキショクヤケイ / ニワトリ / 国際情報交換 / タイ:アメリカ:イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はPCR法による安定的なミトコンドリアゲノム(mtDNAゲノム)の増幅が成功の鍵を握る。そのためmtDNAゲノムを増幅するプライマーデザインには細心の注意を払い、作成に2ヶ月の期間を要した。マルチプレックスPCR(MPCR)法に用いる目的で、ミトコンドリアDNAを48断片に分け、188個のプライマーを設計した。このプライマーを用いセキショクヤケイ10個体のmtDNAゲノムをMPCR法で決定した。その結果、7個体でほぼ全長配列を決定することに成功し、2個体は部分配列を決定することができた。これにより本研究で設計したプライマーセットは十分に機能していることが確認された。mtDNAゲノム配列の決定に成功した7個体はバングラデシュ周辺地域に生息するセキショクヤケイである。これまで同地域のセキショクヤケイmtDNAゲノムデータは存在せずその系統関係は不明である。そこでこれら7個体のデータと先行研究で報告された61個体のセキショクヤケイおよびニワトリデータとともに最尤系統解析を行った。その結果、セキショクヤケイの遺伝的分化が地域集団を反映している可能性が示唆された。これは先行研究によるミトコンドリアD-loop領域の解析結果と異なり、恐らく先行研究で用いたD-loop領域のGenbank登録配列の多くが短い配列であったことと、人為的エラーによる配列情報がノイズとして加わったことでセキショクヤケイ地域集団の遺伝的分化が見落とされてしまったと考えられる。そこでニワトリ品種D-loop領域の正確な配列を得る目的で、新たに30品種50個体の配列を決定し最尤系統解析を行った。その結果mtDNAゲノム系統解析で見出されたセキショクヤケイ系統で一部の系統に品種が集中した。このことから本研究は一部の地域が品種の多様化に貢献した可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究の知見に疑問を唱える形でセキショクヤケイが遺伝的に分化した集団を形成し生息地域を反映した系統に分かれている可能性を新たに見出した。これは本研究の目的を達成する上で非常に重要な知見である。これにより本研究は実験解析方法に修正を加える必要が生じた。そのため当初の計画と照らし合わせると解析個体数に遅れが感じ取られるかもしれない。その内訳は、当初の計画でmtDNAゲノム配列200個体、現状でmtDNAゲノム配列7個体、D-loop領域配列50個体である。しかしながら、研究開始間もない段階で適切な研究の方向修正が加えられたことと、修正に要した時間を考慮すると本研究は目的達成に向けておおむね順調に進行しているといえるまた、MPCR法のプライマーデザインに大幅に時間を要したことも若干の遅れととれる結果につながったと考えられる。しかし、これによりMPCRのプライマーをlong PCRのプライマーとして転用することが可能となり新たにプライマーをデザインする必要がなくなった。本年度確立された実験系に基づき体系的に実験データを収集することで研究は加速すると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初の研究計画にあったセキショクヤケイとニワトリ品種のmtDNAゲノム配列決定の同時進行という方針から、セキショクヤケイおよび東南アジアの在来鶏mtDNAゲノム配列決定に集中する方針へ転換することとした。その目的はセキショクヤケイの地域集団の系統関係を包括的なサンプリングから、家畜化の起源および品種多様化に貢献した系統の解明の基盤となる系統樹を構築することである。これら標本のDNA試料はニワトリ品種DNAを違い経年劣化によるゲノムの断片化の影響を受けている。そこで前年度開発したMPCRのプライマーを用いてセキショクヤケイ43個体と東南アジア在来鶏10個体でmtDNAゲノム配列を決定することを今後の第一の目標とする。これにより得られたセキショクヤケイの包括的系統関係をベースに、次にニワトリ品種のD-loop領域配列の網羅的配列決定を行う。解析予定の品種数は当初の予定通り77品種200個体を予定しているが、実験の進行状況に応じて採集地域の違いなども考慮して解析個体を追加する。ニワトリ品種でmtDNAゲノムではなくD-loop領域とした理由は、Miao et al. (2013)においてセキショクヤケイ(ニワトリ品種を含む)に主要9系統が存在することが示されており、それぞれの系統におけるディアグノスティック変異サイトが定義されていることから、ミトコンドリア全長配列でなくともD-loop領域配列で十分に品種の系統を明らかにすることができると考えたためである。 以上の推進方策により、東南アジア一帯を網羅したニワトリ家畜化の起源と品種多様化に貢献した主要系統の解明を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では少なくとも200個体のmtDNAゲノム配列を決定する予定であったが、研究途中段階の予備解析において計画の方向修正を要する発見があったため実験を一時中断し、計画の練り直しを行った。その結果、実際に解析できた個体数はおよそ60個体となった。この予定していた解析個体数に及ばなかった分が次年度への繰り越し金として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は当初の使用計画でDNAの配列解析に1,800千円の予算を計上しているが、本年度の繰り越し分もそれに加えて配列解析および消耗品に使用する。次年度は当初の予定より解析個体数がおよそ100個体増加しているが、次年度に予定していたマルチプレックスPCRのプライマーデザインが本年度で終了しているため、実験データ収集に要する時間がその分増えている。これにより予定よりも多い解析個体数を処理する時間は確保されているため、実現可能な使用計画と考える。
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