2015 Fiscal Year Research-status Report
セキショクヤケイの自然史から家畜化に至るまで~分子で探るニワトリの歴史~
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26850212
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
佐々木 剛 東京農業大学, 農学部, 教授 (00581844)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分子系統解析 / 遺伝的多様性 / 系統地理 / 家畜化 / ニワトリ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の実績を受けて本年度はセキショクヤケイおよび東南アジア在来鶏のmtDNAゲノム配列を決定し、セキショクヤケイの地域集団の系統関係を包括的なサンプリングから、家畜化の起源および品種多様化に貢献した系統の解明の基盤となる系統樹を構築することを研究指針方策とした。本年度新たに解析に加えられた標本はラオス産のセキショクヤケイ4個体、東南アジア在来鶏からタイ在来鶏2品種4個体、インドネシア在来鶏3品種3個体である。前年度のデータに今回の標本を追加し、ミトコンドリアゲノム配列による分子系統解析を行ったところ、本研究の結果はMiao et al., (2013)の系統を支持した。その中でハプログループB, E, F, I系統はそれぞれ地域特異的な遺伝的分化を持った系統として示された。しかし、ハプログループDはインドネシア、フィリピン、バングラデシュのセキショクヤケイが単系統を形成し、地域性は認められなかった。これはこのD系統が南および東南アジア一帯にかけて見られるハプログループであるか、もしくはその一帯に含まれる地域のいずれかに由来する個体が他地域へ移入されたためと考えられる。本研究の在来鶏に関しては、タイ産在来鶏が世界各地のニワトリで見出される主要なハプログループA, B, Eに加わったことで、タイ産在来鶏が世界に広がるニワトリ品種と同じ系統である可能性が示唆された。一方、インドネシア産在来鶏は3個体全てが1つのハプログループに加わったことで、31系統あるインドネシア産在来鶏は1つの系統から作出された可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの本研究の実験解析によって示されたB, E, F, I系統のような地域特異的に遺伝的に分化した集団の存在は先行研究(Sasaki et al., 2014)の見解と異なっていた。一方、D系統で示されたような地理的に生息地が異なるセキショクヤケイの個体で構成される系統の存在は、先行研究(Sasaki et al., 2014)が示唆した東南アジア一帯での遺伝的多型状態を反映しているのかもしれない。つまり、セキショクヤケイの一部のハプログループは地域特異性を示しながらも一部のハプログループではその生息地一帯に分布しているようである。この結果をもたらした要因として次の2つの可能性が考えられる。第1に地域特異性を示したB, E, F, Iのハプログループの標本が不足しているため、地理的分化として見えているだけである可能性。第2に広範囲なDのハプログループの標本は鶏に家畜化された後の人為的な移動と再野生化によるセキショクヤケイへの遺伝子移入による可能性である。いずれにせよセキショクヤケイの自然史は通常の野生動物が示す自然史と同じ要因で成立していると考えると誤った見解を導くかも知れない。人類社会との関わりが強いが故に自然界において特異な遺伝的多様性を示している可能性が本研究により見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究計画の最終年度で有るため研究のまとめを見据えた研究展開を行う。これまでの研究成果でミトコンドリアゲノムによる分子系統解析がセキショクヤケイの自然史の解明に有効である可能性が十分に示された。一方で、セキショクヤケイの地理的分布と遺伝的分化に関しては東南アジア一帯で遺伝的多型状態である可能性を示唆する結果と遺伝的分化した地域集団の存在を示す結果が混在している。これらを解明するためにさらに多くのセキショクヤケイ標本を解析に追加する。特にインドネシアバリ島に生息する亜種Gallus gallus bankivaはデータバンクに登録された1個体分のデータしか解析に用いておらず、またその個体の系統的位置は亜種としての独自性を示していなかった。本研究で新たにこの亜種のミトコンドリアゲノム配列を決定し系統解析に加えることで検証する必要がある。実験および分子系統解析の方法はこれまでの研究ですでに確立されているため年内に行うことは実験作業によるデータの追加である。それを平成28年内に終えて年度末にかけて分子系統解析と論文作成を行い研究のまとめとする方針である。
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Causes of Carryover |
本年度研究開始から順調に標本を処理しミトコンドリアゲノム配列を決定した。研究の途中で新たなデータを解析に加えその結果を基に研究の方向性を確認しながら進めた。本年度の研究成果で見出された新たな課題、すなわち地理的な遺伝的分化を示す系統と地理的な遺伝的分化が見られず生息域全域で多型状態を共有する系統が見つかったことで解析に用いる標本選びを慎重に行う必要が生じた。そのため入念な系統解析を繰り返し次の展開への精査を行ったため実験は一時停止することとなった。本年度で繰り越し金が生じた理由はこの実験一時期間によるものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は最終年度であり、実験すべき標本資料も残されている。配列解析に50万円の予算を見込んでいる。これにより十分なDNAデータが収集できると考えられる。残りの予算については研究の進行状況に応じて学会での成果発表もしくは論文投稿に使用する予定である。
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[Journal Article] Evaluating the phylogenetic status of the extinct Japanese Otter on the basis of mitochondrial genome analysis2016
Author(s)
Waku, D., Segawa, T., Yonezawa, T., Akiyoshi, A., Ishige, T., Ueda, M., Ogawa, H., Sasaki, H., Ando, M., Kohno, N., Sasaki, T.
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Journal Title
PLOS ONE
Volume: 11
Pages: e0149341
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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