2014 Fiscal Year Research-status Report
検出感度と定量精度を大きく向上させる,官能基別ESI増強重水素標識試薬の開発
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26860027
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
小川 祥二郎 東京理科大学, 薬学部, 助教 (30546271)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | LC/ESI-MS/MS / 重水素標識誘導体化 / 誘導体化 / 高感度化 / 精密定量 / ESI増強原子団 |
Outline of Annual Research Achievements |
先に,申請者は,光学活性カルボン酸に対し,通常の逆相分配での対掌体分離,ESI-MS/MS応答性を大幅に向上させる新規誘導体化試薬としてDAPAPを合成した.本試薬はESI増強原子団であるジメチルアミノ安息香酸 (DAB) と,カルボン酸に対する反応活性基及び分子不斉性を有する(S)-3-アミノピロリジンの縮合により調製される.そこで申請者は本年度の研究計画として,DAPAPの重水素標識アナログ (d-DAPAP) の合成を試みた.アミノ安息香酸 (AB) を原料として種々の重水素導入法を検討したところ,重水素標識ホルムアルデヒドを用いる還元的アミノ化反応によりABのアミノ基にd2-メチル基が2つ導入されたd4-DABが高収率で得られたことから,これを鍵中間体としてd-DAPAPの合成を達した.さらに,IBU-DAPAPとIBU-d4-DAPAPのLC/ESI-MS/MS挙動を比較したところ,両誘導体のLC/ESI-MS/MS挙動は同様の挙動を示したことから,d4-DAPAPはDAPAPの重水素アナログとして好適であると評価した.得られた誘導体化試薬の実用性を評価するために, DAPAP,d-DAPAPのペアを用いたIsotope-coded derivatization (ICD) を基盤とする唾液中IBU定量法の開発を試みたところ,その検量線は良好な直線性を示し,精度・正確度ともに満足しうるものであった.一方,d-DAPAPを用いないDAPAP誘導体のみで絶対検量線を作成した場合と比較して,開発した定量法では検量線の精度・正確度が大幅に向上することも確認した.最後に本法をIBU服用健常人唾液を用いた唾液中IBUの対掌体弁別定量に応用し,キラル反転や濃度推移など,血液分析と同等の情報が得られることが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載してある通り,本年度は申請者が先に合成した光学活性カルボン酸用の誘導体化試薬 (DAPAP) の重水素標識アナログ (d4-DAPAP) の合成を達成することができた.DAPAPとd4-DAPAPのペアを用いてICDに基づく唾液中IBUの定量を行い,その実用性を評価した.本法を用いることで,入手・合成が困難なIBUの安定同位体標識ISを用いなくても精密な定量を可能にし,申請者の提案するESI活性重水素標識試薬を用いた「高感度検出」と「測定対象の安定同位体標識ISなしでの高精度定量」を同時に達成する新コンセプトの誘導体化試薬の有効性を示すことができた.現在,カルボキシ基以外の官能基用のESI増強試薬並びにその重水素標識アナログの合成にも着手しはじめている.以上のとおり,研究はおおむね順調に進行しており、平成27年度ついても特に問題なく進行可能であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,本法の適応拡大を図る.すなわちカルボン酸用ESI増強重水素標識試薬のみならず,ヒドロキシ基・アミノ基あるいはオキソ基に対するESI増強重水素標識試薬の開発を行う.例えば,オキソ基用のESI増強試薬としてはヒドラジノピリジン (HP) が有効と考えられ,HPの重水素標識アナログの合成には芳香環への重水素導入が必須であると考えられる.そこで,パラジウム炭素担持触媒を利用した重水による重水素導入,または三フッ化ホウ素重リン酸錯体による重水素導入を検討する.合成した官能基別ESI増強周水素標識試薬は唾液中マーカーステロイドの分析に適用し,その実用性についても評価する.例えば,オキソ基用の誘導体化試薬の評価には加齢男性性腺機能低下症候群マーカーであるテストステロン及びデヒドロエピアンドロステロン分析への適用を考えており,ヒドロキシ基用の誘導体化試薬の評価にはアルツハイマー病マーカーである24S-ヒドロキシコレステロール分析を試みる予定である.
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Causes of Carryover |
本年度の成果でも報告した通り,DAPAPの重水素標識アナログ,d-DAPAPの合成が比較的スムーズに達成されたため,当初,重水素標識用試薬購入用に計上していた金額よりも少ない金額で平成26年度の研究が遂行できた.加えて,平成26年度は国際学会 (APCE 2014) に参加し,研究成果を報告したが,国内 (京都) で開催されたため,旅費についても予定していた金額より安価であったため,実施出額が当初の計上額よりも実際の使用額が低くなったものと考えられる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度も平成26年度に引き続き,官能基別のESI増強重水素標識試薬の合成を行うために,次年度使用額は平成27年度の直接経費と合わせてESI増強誘導体化試薬合成用試薬類や重水素標識用試薬などの消耗品あるいは溶媒などにその大半を使用する予定である.直接経費の消耗品費以外の使途として,学会参加のための旅費,論文投稿の際の英文校閲費や投稿料として一部を使用する予定である.
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